music by TAM




ほらね?
だから言ったじゃない。
後白河はこういう奴なんだから…
あなたも分かっていたでしょう?
でも、少し見直したよ?
九郎さん…





仲間





まさか、ヒノエが『彼』のことだったとはね…。
それなら避ける理由も何となく分かるけれど。
10年も前のこと、いつまでも気にしてるなんて、ちょっとしつこいんじゃない?(怒)
でもまぁ、私がそれだけ酷いことしたってことか…。
文句言える立場ではないよね。

「そなた、わしの元へ来ぬか?」

またか。
始まったよ、法皇様のいつもの病気が。

「え?私ですか…?」

ほら、望美も困ってるし…。
こうなることは予想ついてたけど。
まさか、「俺は分からなかった」なんて言わないよね?
九郎さん?

「もちろん、一人でとは言わぬ。と共にな」

…私もですか?
何でこっちにも火の粉が降りかかるのよ!
第一その話は昔どころか、何度も断ってるでしょう!?
また面倒なことにしてくれちゃって…
それもこれも全部、九郎さんのせいよ!!

「ちょっと、どうするの?九郎さん。まさか、俺には関係ないといか言わないよね?」

そう言って、隣に来ていた九郎さんを見れば…
あなたも困っていらっしゃるのね…。
でも、これは九郎さんの責任でもあるんだから。

「お前こそ、どうするつもりだ?法皇様の申し出は…」
「私のことはいいから。自分で何とか出来ると思うし、初めてじゃないしね。
だけど、望美は助けないとマズイと思うよ?」

暗に『あんたが助けろ』と言っているのだが。
どうやら、その必要もないかもね。
自分にも責任があるって分かってるみたいだし。
いざとなれば私が止めるつもりでいたけど。
…止められなかったのは私も一緒だしね。

「お待ちください、法皇様!」

意を決したように、九郎さんが法皇様と望美の間に割って入る。
さて、何て言うつもりなのか。
でも、ちゃんと助け舟は出してあげるよ。
必要なら、ね…。

「この者は私と将来を誓い合った者。いくら法皇様の頼みと言えども、お渡しすることはできません」
「え?」

うわ…っ。これは拍手モノだわ。
九郎さんにしてはすごいこと言ってるじゃない!
なんて、ちょっと感動してたり。

「九郎の許婚だったとは…。それでは仕方ないの。だが…」

まだ少し不満ってことか。
そう言えば、今法皇様の元には白拍子がいないって言ってたっけ。
法皇様お気に入りの、だけれど。
このままじゃ、たまにでもいいから舞を見せに来いとか言い出しそう…。

「たまにでも良いから、わしの元へ舞を見せに来てはくれぬか?」

ほらきた。
全く、そろそろいい加減にしていただきましょうか?

「法皇様、彼女も多忙の身。あまり無理を言って困らせては気の毒ですよ?」

やんわりと「我侭言うなよ」と言ってみる。
そりゃもう、満面の笑みで。

にまで言われては仕方が無いの。それで、はどうなのだ?」

…ふふっ。
私に同じことを何度言わせるおつもりでしょう?

「法皇様、私は…」
「分かっておる。自由には動けぬ身だと言いたいのだろう?だが、そなたは今以前よりは自由ではないか」
「それはそうですが…」

どうしようかな…。
確かに、今までは政子様の側を離れるわけにはいかないから、自由にはできないって断ってたけれど。
今は違うし…。
九郎さんたちといれば、それなりに時間が出来るときもある。
同じ理由は通用しないってわけか。
私としたことが、気付くのがちょっと遅かったな。

「申し訳ありませんが、これでも私にも許婚がおりますので。彼に断らぬことには何とも言えません…」

ここは九郎さんのアイディアをお借りしよう。
というか、それしか思いつかないこの頭を恨むよ…。
許婚の話は、後で政子様に口裏を合わせてもらえば何とかなるでしょう。

「ほう、それは初耳だの。その者、わしの知っておる人物か?」

突っ込んで聞いて来るじゃないの…。
九郎さんも、驚くのは分かるけど顔に出さないでっ。
怪しまれちゃうじゃない!

「後白河院、その者は私のことですよ」

誰がそんなことを言い出すのか?
と突然横に立った人物を見れば、そこには信じられない人物がいた。
なんで…彼が…?

「お主は…。なるほど、そういうことであったか。ならば仕方あるまい」

法皇様は意外にもあっさりと退いてくれた。
法皇様も彼のことを知っているからだろうけど。
でも…

「どういう風の吹き回し?」

儀式が終わり、法皇様も帰った神泉苑。
今は片付けをする人たちしか残っていない。

「さあね」

今は周りには誰もいない。
知り合いなのか?と聞かれる心配もないのだから、話せばいいのに…。
全く言うつもりはないってこと?

「そう」

ただ一言そう言って、彼に背を向ける。
さっさとその場を立ち去ろうとしたんだけれど、それはかなわなかった。

「ちょっと待ちなよ。相変わらずつれないね」

だって、後ろから彼に腕を掴まれたから。
訓練されてる私が振りほどけないなんて、さすがは現別当殿というわけか。

「だから避けていたんでしょう?いいじゃない、これからもそうすれば。お互い今まで困らなかったんだし」

ああ、私ってなんて嫌な奴なの?
もっと言い方ってものがあるだろうに。
それに…なんでいざ本人に会ったら、こんなにも怒れるの?
感情を安易に見せてはいけない、そう教えられているはずなのに。

「怒ってるみたいだね」
「怒ってる?誰が…っ」

見透かされたことが悔しくて、思わず怒鳴りかけてしまう。
こんな風に怒ったことなんて、今までなかったというのに…。

が。実際怒ってるだろ」

思わずドキッとしてしまった。
…、彼が私の名前を覚えていたことに…少し驚いたから。
ただ一度名乗っただけだというのに。
あの日、たった一度だけ…





+++++++++++++++++++++++++++++





雨の中目が合った彼女は何かを呟いた…。

「だから…避けていたんだね」

雨の音のせいで唇の動きを読んだだけだから、確信はないけれど。
どうやら、覚えていたみたいだね。
オレのことを…。

「その者は、わしの知っている人物か?」

のついた嘘は決して悪いものではない。
だけれど…ちょっと詰めが甘かったみたいだね。
お前も立場上、やたらな人物の名前はだせないだろうし…
法皇の知らない人物だと言えば、怪しまれることになるだろうしね。

「その者は私のことですよ」

話を聞いていて、少しだが気に入らなかった。
が狸に抱え込まれる?冗談じゃない。
オレでさえ、まだ彼女のことを何も知らないというのに。
10年間も忘れることがなかったんだ。
やっと、答えが得られるかもしれないというのに…
おめおめ、逃がすわけがないだろう?

「どういう風の吹き回し?」

そう言うはかなり不服そうな顔をしていた。
どうやら…よほど気に入らなかったみたいだね。

「さあね…」

どうする?
またあの時のように、オレの心を覗くのか?
オレが何を考えていたのか、お前なら見ることができるんだろう?
あの時にその力には気付いたけれど。
一応弁慶にも、簡単には話を聞いているからね。
『源氏には、記憶の読める人物がいるらしいですよ』と。
その話を聞いた時、彼女だとすぐに直感した。
ったく、弁慶の奴…『らしい』どころかお前の知っている人物だろ。

「そう」

オレに背を向けた彼女。
正直意外だった…。
無理やりにでも知ろうと思えば、そのすべがにはあるというのに。

「ちょっと待ちなよ。相変わらずつれないね」

わざわざ腕を掴んでオレからに触れる。
力を使ってみろと言わんばかりに…。
だが、彼女はそうしようとしなかった。

「だから避けていたんでしょう?いいじゃない、これからもそうすれば。お互い今まで困らなかったんだし」

確かにそれもあるけれど。
オレが避けていた理由を探ってないのか…?
力を使えば、一発だろう?
やっぱり…あの夜あったお前とは違うみたいだね。

「怒ってるみたいだね」
「怒ってる?誰が…っ」

オレが言ったことが図星だったのか、が声を少し荒げた。
だが、そうだろ?
昔会ったお前は、そんなに感情を表に出していなかったのに。

が。実際怒ってるだろ」

その顔は、なんで名前を覚えているのか?って顔だね。
忘れるはずがないだろう?

「…そりゃ怒れるに決まってるじゃない。訳も分からず、ずっと避けられてた人の気持ち分かる?」

まぁ、確かにね…。
オレは彼女だと気付いていたけれど、はオレだとは気付いていなかったのだから。
あまり気分のいいものではなかっただろうね…。

「それは謝るよ…」

確かにオレが悪かったからね。
いつまでも昔のことを引きずって、恐れていたオレが。
でも、オレが謝ったら彼女はため息を一つついた。

「でも、理由が分かったから…もういいよ。避けられて当然だからね。力のこと気付いてるんでしょう?」

そう言うと、は腕を掴んでいるオレの手に視線を落とした。

「私の力を知った人のほとんどがそうだったから、慣れてるし。あなたも早く離さないと
また記憶を覗かれるかもしれないよ?」

少し悲しそうに…寂しそうな笑みを浮かべて。
だが、その笑みはどこか自嘲気味な感じを受けた。
この力のせいで、傷ついてきたのだろう…。
そして傷つけた人間の中に、オレも入っているというわけ、か…。

「ヒノエ」
「え?」

唐突に名前を告げたオレに、彼女は驚き不思議そうな顔をした。

「だから、オレのことはヒノエでいいよ。『あなた』じゃ仲間同士なのにおかしいだろ?」
「…仲間?」

あれだけ避けていたのに?と言わんばかりだ。
存外、昔のことを引きずっているのはオレだけじゃないのかもしれないね…。





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「それは謝るよ…」

理由も分からぬまま、避けられていた人の気持ちがわかるか?と言ったら彼はそう謝った。
なんで謝るのよ…。
まぁ、そう言うように仕向けたのは私だけど…。

「でも、理由が分かったから…もういいよ。避けられて当然だからね。力のこと気付いてるんでしょう?」

でも、もういいの。
謝ってもらう必要なんか無い…。
私の力を知っている以上、それは仕方の無いことだから。
私から言わせれば、九郎さんと弁慶さんが不思議でしょうがないくらいだし。
二人とも力を知っていても普通だからね。

「私の力を知った人のほとんどがそうだったから…慣れてるし。あなたも早く手を放さないと
また記憶を覗かれるかもしれないよ?」

そう…だから早く放して。
記憶を読んでみせろと、私を試したんだろうけど。
あいにく、むやみに人の記憶を読むのは止めたので。
それに、この力が嫌なら…今までのように避ければいいじゃない。
恐れて、私のことを嫌えばいい…。
今までの人たちと同じように。

「ヒノエ」
「え?」

唐突に告げられた名前。
思わず聞き返してしまった。

「だから、オレのことはヒノエでいいよ。『あなた』じゃ仲間同士なのにおかしいだろ?」
「…仲間?」

一体何を言い出すんだ?この人は…?
私が、仲間…?
彼にとっては嫌な存在でしかない私が…仲間?

「私のことが嫌いなのに…どうしてよ…?」

どうして、嫌いなのに仲間だなんて言えるの?
今までの、源氏の人はみんなそうだった。
仲間なんかじゃないと…そう思っていると言っていたのに。
どうして、彼は違うの?

「おいおい、いつオレがお前を嫌いだって言った?」
「だって、避けてたでしょ?それに、今までこの力を知った人は皆そうだった」

九郎さんと弁慶さんを除いてね。
政子様と頼朝でさえ、この力を恐れたというのに…。
それでも利用価値があるから、未だに私を側に置いているのだけれど。

「他の奴らとオレを一緒にしないでほしいね」

にわかには信じられない。
今までが今までだし。
でも、九郎さん達みたいな人がいないとも言い切れないしなぁ…。
とりあえず…

「ヒノエくんがそれで良いならいいよ」

そうよね。
彼がいいなら別に私は構わない。
仲間だと言ってくれるのならば、仲間でいよう。

「それに…オレはお前に興味があるけどね」
「それはどうも」

何処にどう興味があるのかは知らないけれど。
とりあえず、悪い意味ではないだろうから答えてはおく。
それはまあ、素っ気無くだけれども。

「オレがもしも、嫌いじゃなくてむしろ好きだと言ったら…どうするんだい?」
「あり得ないでしょう?」

突拍子も無い質問に、思わずキョトンとしてしまう。
何度も言うようだけれど、この力を知っていてなお、そんな事を言う人がいたのならば…
悪いけれどもその人の頭を疑ってしまうわ。

「10年間一度も忘れたことがないと言ってもかい?」

10年間忘れたことがないのは、私も一緒。
突然現れた、不思議な男の子だったからね…。

当時の熊野別当の息子。
そんな彼が従者を一人だけしか連れずに、屋敷に忍び込んだのだから、印象に残って当然というもので。

そして何より…名前を聞いてくるなんて予想外だったから…。
刀を突きつけられて殺されかけた上、不思議な力も見せ付けられたというのに。
それでもなお、怖気づかずに名前を問いかけた子…。
私も忘れはしなかった。

「もちろん」

でも、それとこれとは別よ?
彼が私を好きだなんてことはあり得ない。
たとえ10年間覚えていようとも、ね…。

「だから、間違えないでね…?」





間違えないで、その言葉の意味を理解しかねているみたいだけれど。
ヒノエくん、あなたが興味を持っているのは…『私』じゃないよ。
そのことに、いつ気付くのかしらね―――…?










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あとがき
なんて可愛くない主人公なのでしょうね?
いや、そういう性格にしてるのは私ですけれども…。
それに、ヒノエが…ヒノエじゃないっ…。
でもとりあえず仲直り?はしてくれたみたいなので、何とか話が進められる…といいな(汗)