music by 我楽







元の世界…
皆がいる世界…
そのどちらも、私の世界だけれど。
私の居場所は…
彼のいるところだから―――





帰るべき場所





『帰りたい…』

宝珠の熱と共に響いた声は、間違いなくのもので。
その声は、頭に直接響いているかのようだった。

『お願い、応えて…』

空耳なんかじゃない。
オレはハッと顔をあげて、望美と朔ちゃんはその様子に不思議そうな顔をした。
だけれど他の八葉は全員、自分の宝珠を気にしていて。
どうやら、全員に今の声が聞こえたみたいだった。

…?」

オレの呟きに八葉全員がそれぞれ目配せして、確信しているかのように頷いた。

『帰りたい』

その言葉は、オレが望んでいた言葉。
彼女のためには帰ってこないほうがいい、と言ったけれど…
それでも、本当は望んで…願ってしかたがなかった言葉だった。

の声…聞こえたんだね」

白龍はどこか嬉しそうで。
まるで、こうなることを予想できていたみたいだった。

「宝珠は繋がってるから、の声届いたんだよ」

白龍の言葉に、望美は多少驚いて。
朔ちゃんは少し驚いたものの、納得していた。

『駄目なの?届かない…の?』

聞こえてる。
ちゃんとお前の声、届いているさ…。
絶望したような、悲しそうな声が響く。
どうしたらいい?
どうすれば、オレの声を届けられる?

「強く願って?そうすれば、に声…届くよ」

白龍が真剣な眼差しで、オレたち全員を見つめる。
強く願う…そうすれば、声が届く。
そんなこと、普段は突然言われても…どうすればいいのか分からなかっただろう。
でも…その時はそんなこと全く無くて。
誰もが示し合わせたかのように、目を閉じて。

『戻ってきて欲しい…』

全員が同じ事を願ったことが、宝珠から伝わってきた。
…ここにいる皆が、お前が帰ってくるのを望んでる。

だけれど…誰よりもオレが一番『帰ってきて欲しい』そう望んでるんだ。
帰りたい、戻って来たいと…お前が望んでくれて。
こんなにも嬉しくて、安心した。





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『駄目なの?届かない…の?』

何度呼びかけても、何の反応も返ってこない。
宝珠はこんなにも熱く力を解放しているというのに。
諦めたくない。
私は…自分の居場所へ帰りたい。

『お願い…誰でもいい。応えて…』

必死でより強く、もっともっと強く願う。
一段と激しく、私の中の宝珠が脈打った。

『誰でもいいなんて、言わないでくれないかな?姫君』

その声にバッと顔を上げる。
いつもと変わらない口調。
からかってるのか真剣なのか、掴めないこの声は…。

「ヒノエくん?」

間違えようも無い彼のもの。
繋がった安堵感から、思わずその場にへたり込みそうになる。
だけれど、それを根性で耐えた。
そんな、情けない事をしてる場合じゃないでしょ?

『ああ、そうだよ。やっとオレの声が届いたみたいだね』
「よかった…。誰も応えてくれなかったらどうしようかと思った…」

いや、そんなことは無いと思ってはいたけれど。
でも、もし応えてくれなかったら…
それほど虚しいことはないし…。

『オレが姫君の声に応えないとでも?絶対に有り得ないね。それに…誰でもよくはないだろ?』
「え?何で?」

姫君の声に応えないのかどうかは、まあ軽くスルーして。
とりあえず、いつものことだから放っておこう。
でも正直応えてくれるのは、八葉なら誰でもいいはずなんだけど…。
そりゃ、全員に応えてもらえれば、良い事この上ないけれど。
とにかく、誰かに反応してもらわなくきゃ話にならないし。
だから、ヒノエくんじゃなきゃいけないってわけでも無いのでして。

に応えるのは…オレの役目だからね』

ふふっ、と向こうで笑ってるのが分かる。
ああ、そういう意味か。と思いつつ。
こんな時まで一体何を言ってるのか。
一瞬面食らった後、思わずため息をついてしまう。

『ヒノエ、さんを困らせないでくれますか?』
『アンタは黙ってろよ。お呼びじゃないんだけど?』
『ヒノエが呼んでなくても、彼女は僕を呼んでいますから』

弁慶さんも…。
相変わらずだなぁ…この二人。
そんなに仲悪く見せてどうするつもりなのかしらねぇ?
本当は仲がいいくせに…お互いに素直じゃないんだから。
っていうか、素直じゃないのはヒノエくんだけで、弁慶さんはどこか楽しそうだけど。
ま、とりあえずそんな二人は放っておいて(酷)
もしかして…

「皆も?」

ヒノエくんと弁慶さんだけじゃない?
この二人が繋がったなら…皆の声も聞こえる?

『もちろん。聞こえてるよ〜』
『全く、いつまで待たせる気だ』

景時さんの反応はいいとして。
九郎さんって…やっぱりもうちょっと言い方ってもんが…。
いや、心配してくれてる裏返しだってことは分かるんだけど。
顔が見えない分、いつも以上にぶっきらぼうに聞こえるんですけど?

殿、大丈夫だろうか?』
「私ですか?大丈夫ですよ。逆に私の方が、みんな大丈夫かなって心配してるくらいですから」
『そうか…。こちらも大丈夫だ。ヒノエを除いてだが…』

え…?
ヒノエを除いて?
っていうことは、ヒノエくんは大丈夫じゃないって事なんだけど…。
さっき声を聞いた限りでは、元気そのもののような気がしたんですが?

『敦盛、余計なこと言うなよ』
『余計なじゃないだろ、ヒノエ。もう少し素直になったらどうなんだよ』
『譲まで…。ったく、オレは十分素直だけど?それを言うなら、お前の方が当てはまるんじゃないのか?』
『俺が?どこがだよ』
『さぁね。自分で考えてみなよ』
『ヒノエ、譲殿…殿が困っていると思うのだが…?』

いやはや、若い少年達の口げんかを前にして、呆然とそれを聞いていただけの私。
元気があるのはいいけれど、口を挟んでいいものなのかどうなのか。

「あ、いえ…私は別に」
『違っただろうか?』
「…違っては無いですね。二人を止めてくれてありがとうございます」

顔が見えないはずなのに、どうして私が困ってると分かったんだろう。
と、ちょっと不思議に思って。
だけれど、私も何となく皆の様子が感じ取れるから、同じような理由かも。と一人納得する。

「それより、ヒノエくんは大丈夫じゃないって…。何かあったの?」
『いや、別に大したことじゃないよ』
「?ならいいんだけど。大丈夫?」
『ふふっ、姫君はそんなにオレのことが気になる?』
「…その様子なら大丈夫みたいね」

心配して損した…。
ヒノエくんは元気そのもの。ハイ、決定。
それにしても、八葉同士も会話できるなんて。
何て素晴らしい代物なのかしらね、宝珠って。
と妙に感心してしまう。

、お前今どこにいるんだよ?』

ふと聞こえた声に、皆が驚いたのが分かった。
私はその理由が分からなかったけれど。

「将臣くんだよね?私、今もとの世界にいるの」
『元の世界?無事に戻れたのか?』
「うん。でも、またそっちに戻るけどね。将臣くんは皆と一緒にいないの?」
『ああ、今は一人で京にいる』

あ、なるほど。
だから皆が驚いていたわけか。
その場にいない人の声までしたら、そりゃ驚くわよね。

『京!?将臣も京にいるのか?』
『お、九郎じゃねぇか。俺も、ってことはお前らもか?』
『ああ。でも何故京にいるんだ?』
『ちょっと人探しをな。怨霊を作り出してる奴を止めなきゃならねぇ』
『もしかしたら、俺たちの目的と一緒かもしれないな』
『へぇ、だったらどっかで会えるかもな。その時は、俺も同行させてもらうか』
『それは心強いな』

怨霊を作り出してる奴を止める?
それは間違いなく平家の人なんだろうけど、将臣くんが止めに来るってことは…間違いなくその人は勝手な行動をしてるってことよね。
って、九郎さんと将臣くんて…意外とかなり仲が良いのよね。
同じ青龍だからかと思ってたけど、同じ朱雀の彼らは仲が良くないから…そういうわけじゃなさそう。

『本題はいいのか?』

リズ先生の声は、落ち着いていたけれど。
恐らく、内心呆れられてるんじゃないかって思う。
だって、本当に本題そっちのけで好き勝手に会話してたんだし。

「そうでした。すみません、先生」
『いや、いい。それで、我々はどうすればいいのだ?』
「えっと、皆には…」

私は簡単に説明をしていく。
でも重要な点はしっかりと。

私が時空の狭間を開くから、私が狭間で迷わないように目印になってほしいということ。
そのためには、皆に強く『帰って来い』と願ってもらわなければならないこと。

この二点はちゃんとしておかなくちゃね。

『何だ、そんなことでいいのか』
『ま、お前がそう言うなら力を貸してやるよ。そっちより、こっちの方が良いってことだろ?』
『俺たちが力を貸しますから。先輩も朔も、さんの帰りを待ってますよ』
『大船に乗ったつもりで、まかせちゃってよ〜』
殿、私達なら心配要らない』
『うむ。お前は帰ってくることだけを考えなさい』

皆、私の提案した方法に、自信たっぷりで。
何だか、心配していた自分が馬鹿みたいに思えてくる。
良い意味でだけどね。

『そんなことなら、お安い御用さ。真っ直ぐオレの元へ帰って来いよ?』
『ええ、皆の力を合わせましょうか。僕達は全員、きみに帰ってきて欲しいんですよ。だから…安心してください』
「ありがとうございます…」

弁慶さんの言った『安心してください』…。
その言葉は一体何を指して言ったのだろうか?
ただ単に、失敗するかもと不安にならずに…という意味なのか。
それとも…私が『皆に帰ってこなくていいと思われてたら…』と不安になっていたのを、感じ取っていたのか…。
昔から、変なところで鋭いからなぁ。

「段取りは出来たのか?」

ずっと横で黙っていた知盛が、私に問いかけた。
私は上を見上げて、そして微笑んだ。

「もちろん」

ちょっとよくよく考えたら、皆との会話を口に出してたから…
独り言を言ってるみたいで、恥ずかしいけれど…。
この場合は仕方ないじゃない?
うん、大丈夫。別に本当の意味での独り言じゃないし…っ。
いいわ、聞いてたのはどうせ知盛だし。
母も別になんてことは無いって顔してるから、問題ない!
恥ずかしさから、何とか自分に言い聞かせて。

「お母さん。もう、行くね」
「そうね。元気でやるのよ」

母は少し寂しそうな顔をしたけれど。
でも、優しく微笑んでくれて。

「ね、お母さん。私が初めからいないほうが良かった…って今でもそう思ってる?」

私の問いに、母は一瞬目を見張って。
私も答えを少し聞くのが怖くて、曖昧な笑みを浮かべるしか出来なかった。

「いいえ。今は…あなたがいてくれて良かったと思ってる」

そう答える母の目は、嘘偽りなんか全く無くて。
『あなたがいてくれて良かった』
その言葉に、思わず涙が溢れそうになった。
でも…
笑顔で別れを告げるって決めたんだ。
私も母の笑顔を覚えておくから…だから、母にも私の笑顔を覚えておいてほしいから…。

『皆…いい?』

私の呼びかけに、全員が『もちろん』と返事をしてくれて。
私が知盛の手をとると同時に、体から光が溢れ出した。
その光はあっという間に視界を真っ白に遮って。
どんどん母の顔が見えなくなってしまう。

…愛してるわ…。私の大事な娘―――…」

お母さん…。
ありがとう、私を大切にしてくれて。

ずっと不安だった。
本当はね…あの時声をかけるのを少し躊躇ったの。
拒絶されるのが怖かったから…。
伸ばした手を払われるのが怖くて、怖くて堪らなかった。

でも…
やっぱりお母さんは思ってた通りの人だった。
本当は優しくて、誰よりも私を大切にしてくれて。
もう二度と会うことはないけれど…

「私も大好きだよ…。お母さんの娘で…良かった―――…」

最後の言葉が伝わったかは分からない。
でも、伝わったと信じたい。

開いた時空の狭間。
押しつぶされるかのようなプレッシャーが渦巻いていて。
無意識に、気づかぬ間に流されたさっきとは違う。
気を抜けば…また流されてしまうとそう感じた。
何処かの時空へ流されるならば、まだマシかもしれない…。
だけれど、この狭間で迷えば…
一生抜け出せないような気がした…。

『流されない…っ。私は帰るの…皆のところへ』

離れないように、知盛の手をしっかりと握り締めて。

『帰って来い』

そう聞こえてくる…宝珠の指し示すところを目指して。
皆が待ってる…。
何が何でも戻ってみせる。

『迷わずにオレの元へ帰って来いよ』

彼の元へ…。
私を迎えてくれるあの人のところへ…。

―――…』

私の…
居場所へ―――…。











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あとがき
えー…言い訳?
帰るだけなのに、何でこんなにダラダラと(苦笑)
しかも、続きを書いていくと長くなりすぎてしまうので、とりあえず区切ったら…。
思いっきり短くなってしまったという。
それと、呼び方が…。
ヒノエの『朔ちゃん』と譲の『朔』が…微笑ましいというかなんというか。
それに、九郎と将臣の友情も見ていて微笑ましいですよね。
私の文章じゃまったくその雰囲気が伝わってきませんが(汗)
次はやっと再会してもらおうと思います。やっとかよって突っ込みはナシで!(ダッシュ!)