music by VAGRANCY







やっと会えた…
会わなきゃいけなかった…
私が、本当に前に進むために…
超えなきゃいけない…
最後の壁―――





語られる真実





「まさか…、なの…?」

震える声…
私が誰なのかに気づいて、母は目を見開いたまま恐る恐る私に手を伸ばした。
そっと私に触れる手が温かくて…
ああ…これは夢じゃない。
幻なんかじゃないと実感する。

「どうして…ここに…?それに、その人は…」

母は私と知盛を交互に見て。
確かに母からしたら、知盛は敵で…自分の夫を殺した人物なんだから…
私と知盛が一緒にいることは、不思議以外の何物でもないだろう。

「話したら長くなるから…。とりあえず人に見つからないところでお話しませんか?」

ここだと、道路からも丸見えだし。
いくら海辺は暗いと言っても、周りには建物や街灯があって。
だから、向こうの世界に比べたらかなり明るい。
誰かに見つかるのも時間の問題だろう。

そして…母に対する自分の口調に苦笑した。
久しぶりに会う母に、どんな風に話したら分からなくて…。
つい、かしこまった話し方になってしまう。

「そう…ね」

一瞬だけだけれど、母は寂しそうな顔をして。
私は、やはり、不味かったか…と後悔した。
だけれど…どうしていいのか分からない。
十二年も会ってなかった母との溝は…思いの他深いのかもしれない…。

「ほ、ほら。私はまだしも、知盛の格好じゃ目立っちゃうでしょう?」

敬語は崩れてないけど、とりあえず明るく努めて言ってみる。
別に、そんなに距離を置きたいわけじゃないよ。という意味を込めて。

「お前より俺、が…?」
「間違ってないでしょう?」

なんか異様に嫌そうじゃないの。
しかも、何?
自分より私の方が目立つとか言いたいわけ?
それこそ大きな間違いってものよね。

「納得できないみたいね〜?何か文句あるの?」

にこにこ、と笑みを浮かべて。
でも、きっとコメカミには青筋が立っていただろう。
だって、顔に思いっきり『黙ってろ』と書いていたんだから。

「お前の方が煩いと思うが…?」

煩いって…アンタねぇ(怒)
それはつまり、知盛は私を煩いって思ってたわけ?
それは声?それとも存在が?要は騒がしいと言いたいんですかね?
でも…とにかく何かムカつく!

「ええ、そうですねー。どうせ私は煩いですよ!いつもやる気なさそうな、大人しい知盛様とは違って。でもね、ここでは知盛の方が目立つんですよ!その長身に銀の髪。それにその鎧、どっかの大名行列パレードかっての!」
「ぱれーど…?」
「あー…つまり…。説明するの面倒だわ…」

自分で勢い任せに言っておいて、ちょっと後悔。
いくら将臣くんに色々吹き込まれていても、全てのカタカナが通じると思っちゃダメよね。
お互いに顔をしかめていたら、突然くすくすと笑い声が聞こえた。
見れば、母が可笑しそうに笑っていて。
結局、結果オーライなのか何なのか。

「ついて来て。あっちに車があるの」

『家もそんなに遠くないから、そっちで話しましょう』と母は私達を手招きして。
私達も大人しく母の後をついていった。
久しぶりに見た母の背中は…以前よりずっと小さく見えて…。
今更ながら、十二年の年月の長さを実感した…。










母の車に乗って、十数分。
本当に家はそんなに遠くなくて、自分の記憶の不確かさを改めて実感した。
車中で聞いた話では、ここは鎌倉で。
この家は十二年前に私が住んでいた家で、しかもあの浜にあった森こそ、私が置き去りにされた森らしく。
つまり、十二年前のあの時も、車に乗っていたのは十数分だったんだけど…
あの時の私にはその時間が、もっと長く感じた。

そして、車が珍しいのか(って当たり前なんだけど)知盛が横で煩いのなんの。
っていっても、別に大騒ぎしてるわけじゃなくて。
単に疑問に思ったことを、素直に聞いてくるだけなんだけど。
車は何で動いてるのか、とか。それがガソリンっていうものだって言えば、そのガソリンは何だ?とか。
とにかく色々。
でもまぁ、知盛がここまで色々興味を持つのが、珍しかったと言えば珍しかった。

「へ〜…」

思わず呆けた声が出てしまった。
ガチャと、リビングのドアが開く音がして、入ってきたのは知盛なんだけど。
その服装はこっちの世界の物。
話をするのに、鎧着たままだと威圧感があるし。
何より、洋風の家に鎧は不釣合いだというわけで、無理やり着替えさせた。
臙脂色の長袖に、ジーンズという極めてシンプルな格好なんだけど…。
どうして、こうも似合うかなぁ…。
っていうか、足ながっ…。

「何だ…?」
「いえいえ、よくお似合いですよ?」

別に嫌味だとかいう意味で言ったわけじゃないんだけど。
どうやら、知盛はそうは思わなかったらしい。
一瞬眉をしかめて私を軽く睨んだ。
元々、着替えるのを拒否してたし、仕方ないといえば仕方ないけど。

「動きにくい、な…」
「別に戦うわけじゃないんだから、動く必要もないからいいの」

わざわざ買ってもらっておいて、文句を言うな!
母と私で考えた結果、どうしても鎧のままじゃ気に入らないというわけで。
近くの店まで服を適当に買いに走る事にした。
だって、男物の服なんて母が持ってるわけないしね。

で、母にそんな役目を任せるのも気がひけて、私が買いに走ったんだけど…
こっちのお金の使い方なんて、ほとんど覚えてなくて。
店の人にかなり迷惑をかけて帰ってきたってわけ。

「こっちはかなり大変な思いをしてきたんだから…」

小さく愚痴ってやったら、目聡く知盛が反応した。
『頼んだ覚えはないがな…?』って。
一瞬言葉に詰まった。
確かに…無理やり着替えさせたのは私だし…。

はよかったの?あなたの分も買ってきてよかったのに…」
「いいの。だって、私はお母さんの服でサイズぴったりだし」

無駄なお金使わせるのも、どうかと思うしね。

「それで…本題なんだけど…」

これで会うのはきっと最後だから…
だから、聞けることは全て聞いておきたい。
今まで気になっていたことが、全て解決するから…。

「全部話すわ。何でも…ね。きっともう、知らなくていい事ではなくなってるから…」

母は、一つため息をついて。
私と知盛を真っ直ぐに見つめた。
『そうね…、まずは私が知ってることから話しましょうか』
そう言って、母はゆっくりと語りだした。

「もう知ってると思うけど、には応龍の宝珠が宿ってるの。その宝珠は…使い方によっては世界を救う事も、滅ぼす事も可能な力を持ってる」
「うん…白龍も黒龍も同じ事を言ってた…。だから…誰にも奪われては駄目だって」
「そう…。でもね、理由はそれだけじゃないの」

『今までは…以前は黙っておいたんだけど…』
母は少し困ったように笑みを浮かべて。
でも、私はその次の言葉が何となく予想できていた。

「宝珠を奪われると…、あなたは死んでしまうの…」
「な…んで…?」

やっぱり、と思っても…やはり動揺してしまう。
思わず、横に座っていた知盛の手をギュッと握ってしまって。
知盛が横で一瞬、ピクリと反応したのが分かったけれど、私はそんなこと気にしている場合じゃなかった。

「宝珠を宿す者は…所謂、宝珠という強大な力を抑えるための器…」
「器…?」
「そして、器に選ばれる人物は…強い魂の持ち主なの…。何でか分かる?」
「ううん…」
「そうよね…。応龍の神子は、宝珠の力を抑えるために…自分の魂の力を使うからよ」

魂の力を使う…?
それは、どういうこと?

「応龍の神子の魂は、宝珠を宿した瞬間に…宝珠と同化する。神子は魂を同化させることで、宝珠の力を抑えようとするの…」
「つまり…宝珠はこいつの魂そのものだと…?」

ずっと黙っていた知盛が、突然口を開いた。
別に深い意味があるわけではなくて、ただ疑問に思ったから聞いたんだろうけど…意外だった。
だって、自分には関係ないとか言って、関わりそうに無いと思ってたから。

「ええ、そうよ。だから宝珠を奪われる事は、の魂が奪われるのと同じ事」
「どうして…宝珠の力を抑えておく必要があるの?」
「応龍の宝珠の強大な力は、周りに大きく影響を与えてしまうの。良い方にも悪い方にもね…」

良いほうにも悪い方にも…それは、具体的にはどういう風になのかは、母にも分からないらしいけれど。
でも、世界を左右するほどの力を持っている宝珠なら…きっと有り得ないことじゃない。
存在するだけでも、周りに大きな影響を与えてしまうのかもしれない。

「応龍が失われた時に、宝珠が誰かの手に渡らないための隠し場所として…。そして周りへ影響を及ぼさないよう、力を抑えるために…選ばれるのが応龍の神子…」

まさか、そんな役目があったなんて…
自分がそのために選ばれたなんて…知らなかった。

…。今現れてる力は?」
「えっと…封印の力と記憶を読む力かな。それと小さなケガを治したりって感じで、少しだけなら部分的に時間を戻せるけど」
「ということは…今はまだ、龍神たちの力は戻ってないのね」
「うん。黒龍は逆鱗だけの存在だし、白龍は子供の姿のままだから…」
「きっと、だんだんとの力も強まってくると思うわ。龍神たちの力が戻るにつれてね。そのときはしっかりコントロールできるようにしておくのよ?」
「大丈夫。今までもなんとかしてきたし、自分の力に振り回されてちゃ、格好悪いしね」

私が微笑んだら、母も微笑んでくれて。
そりゃ、不安が無いって言ったら嘘になるけれど…わざわざ、相手を不安にさせるような事を言う必要は無い。

「ね、もう一つだけ聞いてもいい?」
「いいわよ。何?」
「どうして、私を向こうの世界に…?」

これだけは、聞かずにはおけない…。
どうして捨てたの?とは聞かない。
だって…何となくだけど…『捨てた』のとは違う気がしていたから。

「宝珠はね…こっちの世界では力が弱まっていくの…」

『この世界の物じゃないから…』
と母は少し難しそうな顔をして。
何と説明したらいいのか、困ってるようだ。

「宝珠の力が弱まるってことは、同化しているの魂も一緒に弱まっていく…。そして、最後に宝珠は消えてしまう…」
「でも、数年間は大丈夫だったんでしょう?」

私が七歳まで、この世界で生きていたんだから。
その間は大丈夫だったはずだ。

「ええ。でも、七歳を迎えた頃には…あなたは大分弱っていた。覚えてないかしら?ほとんど寝たきりになってたこと」

ほとんど寝たきりに?私が?
一生懸命記憶を遡って、やっと思い出した。
あの時の私は、よく熱を出して。
起き上がれない日もあって…外に出れる日なんて数えるくらいしかなかった。

「私は限界だと思ったわ。今すぐにでもあなたを、向こうの世界に帰さないと…大変なことになるって」
「だから…あの日、あそこに私を?」
「ええ…。一族に伝わる占いで、あの日あの場所に、時空の狭間が開くと知ったから…」

『ごめんなさい…。には辛い思いをさせてしまった…』
母の目には涙が薄っすらと溜まっていた。
『恨んでいるでしょうね…。私の事を…憎んだでしょう…』
そう言って小さく肩を震わせながら、それでも涙だけは流さまいと堪えているのが分かった。

知盛の手を握っている私の手に、力が込められる。
知盛は何も言わずに、少しだけだけれど握り返してくれた。
まるで…『言いたいことは、ちゃんと言っておけ』と後押しをするように…。
後悔だけはするな、と言われているようで…少しだけ勇気が出た。

「恨んでも、憎んでもないよ?一度も…そんな風に思ったことは無かった」
「え?」

私の言葉に、母が驚いて私を見つめた。
その母に私は微笑んで。

「そりゃ、悲しくなかったってことは無いけど。でも…大好きな人を恨んだり、憎んだりするはずないよ」

確かに…悲しかったし…辛かった。
でも…それで恨んだか?憎んだか?と聞かれれば…
答えはノーだ。

「本当に…?」
「本当だよ。ま、怒りたいって気持ちはあるけど…。それでも私のためにしてくれたことだし。それに…私より、お母さんの方が辛かったでしょ?」
「私の方が…?」
「だって、言ってたじゃない。『始めからがいなければ、私はあなたを失って辛い思いをしなくていいのに』って」

その言葉の意味…
今なら自信を持って『私を大切にしてくれてたんでしょう?』って聞けるよ。
会う前は、想像でしかなくて…不安だったけれど…。
やっぱり、私は捨てられたんじゃなかった…。

「大切にしてくれて、ありがとう…お母さん」
…」

とうとう母は泣き出して。
でも、すぐに涙を拭って顔を上げた。
その顔には、もう寂しそうな…後ろめたそうな感じはどこにもなかった。

…あなた達は帰らなきゃいけない…」
「うん…。このままだと、また大変な事になるしね」

知盛は、当然向こうに帰らなきゃいけないし。
私も、宝珠の力が弱まってしまう前に帰らなきゃいけない。
母のしてきた事を無駄にするわけにもいかないし…それに…向こうに待ってる人たちがいるから…。

「でも…どうやって帰ろう?」

問題はそこよね。
どうやってここに来たかも分からないのに…。

「知盛は、何か良い方法知らない?」

適当に知盛に話を振ってみれば、知盛は少しだけ私を見返して。
そしてすぐに、ふいと顔を背けた。

「俺に聞くな…」
「そりゃそうですけど…少しは知恵を貸してくれてもいいんじゃないの?」
「知恵…か」

知盛が可笑しそうにクッと笑みを浮かべた。
何か…嫌な予感がするのは、私の気のせいでしょうかね?

「以前と今回…共通する事を試せばいいんじゃないか…?」
「共通する事って…もしかして…」
「やってみるか?」

知盛が自分の側に置いてあった刀に手をかけた。
以前と今回に共通する事って言えば…私が命の危険に晒されたことで。
どっちも絶体絶命のピンチだったってことなんだけど…。

「却下」

知盛の場合、冗談じゃすまないから嫌。
死ぬわけにはいかないから、向こうに帰るのに。
その前に殺されたら元も子もない。

「上手く行くかは分からないけど…方法ならあるわ」

私達のやりとりを、これまた楽しそうに見ていた母が言い出した。
私は思わず、バッと振り向いてしまう。
だって…今方法があるって…。

「以前はあなたが力を上手く使えなかったから、別の方法をとったけど…。今ならきっと大丈夫…」

そして、母が言い出した方法は…
とても意外なもので。
ちょっと矛盾してるけど…
…簡単で、難しい気がした―――…。










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あとがき
ほとんど全ての謎解き編!でした。
残すは、さんの願いのみ!それは後ほど。
それにしても…知盛が偽者(汗)
そして、現代服にさせてみたのは、悪戯心で(笑)
ちなみに色は…適当。
っていうか、十六夜記のEDの服の色をイメージしたんですが…
あれって何色って言うんでしょうね?って感じで。
本当に適当に臙脂色にしちゃったという(苦笑)
ちなみに、白龍にはまだ子供でいてもらいます!ちゃんと大人になってもらいますけど…。
もう少しだけお待ちを〜(完全に原作無視…)