music by 我楽
還内府という人物。
有川将臣としての彼。
そのどちらも知っているから…
とても複雑な気持ちになってしまう。
その気持ち、分かるんだけど…
こんな状態じゃ、成功するものもしなくなるって!
未来へ繋ぐ想い
「全くもう…」
京への道中、私は一番最後尾を歩きながら思いっきりため息をついていた。
視線の先には、渦中の人物の内1名。
もう一人は、すでに福原へ向かってしまっていて…
つまりは別行動。
『平重盛…還内府は、俺だ』
将臣くんの、衝撃的な告白の後…かなり痛い沈黙が続いていて。
沈黙だけならまだしも、睨み合ったままの硬直状態だったから、かなりきつかった。
別にそういう風になることを、予想してなかったわけじゃないし。
むしろ、もっと最悪な事態も想像してたから…。
睨み合い程度で済んだことは、喜ぶべきことなんだろうけど。
でも…。
九郎さんの素直すぎる性格、将臣くんの必要なこと以外言わないところ。
この二つ、もう少しどうにかならないのかなぁ…。
『やはり、和議は福原で。とのお達しですよ』
京について早速、戦いの火蓋が切って落とされた。
ぐずぐず何てしていられない。
やらなければいけないことは沢山ある。
打てるだけの手を打たなきゃならないからね…。
「…ここまでで、何か質問は?」
弁慶さんが考えた作戦…もとい人選は、本当に見事だと言うべきだろう。
まず、頼朝の説得に九郎さんと弁慶さん。
源氏側の兵への指示、説得に景時さんと朔。
清盛の説得を、将臣くんと敦盛さんに。
政子様の足止めを、望美…そしてその望美の護衛に譲くんとリズ先生。
後白河法皇の元へ、ヒノエくんを。
説明も簡潔に、ただし重要な事はしっかりとされて。
質問なんてあるわけない。
だから、弁慶さんの問いに誰もが首を振った。
「そして、さんと白龍ですが…」
「分かってますよ。影武者役ですよね?」
言われずとも。
と言わんばかりに、楽しそうに笑みを浮かべて言う。
そんな私に、弁慶さんも『参ったな…』と微笑んだ。
「実際に和議の場へ向かうのは、今回も影武者でしょう。さんの言う通り、君にはその人物と
入れ替わってもらいます」
「それで…護衛のために白龍ですか?」
「ええ。そのつもりです。一応は敵陣へ一人赴くわけですから」
うん、まぁ分からないでもないかな。
というか、護衛を誰かつけるのは当然の事だと思う。
だけど…
「白龍は、望美についていてあげた方がいいと思います」
「?お前また、何を…」
九郎さんが、またかといった表情をした。
弁慶さんも同様…というか、全員が全員同じような表情をしたけれど。
今更気にしないわ!
「あのね…別に一人がいいとか、一人でも大丈夫って自信過剰になってるわけじゃないよ?」
「それなら、何だって言うんだ。お前は」
「だーかーら!人の話は最後まで聞く!」
明らかに不機嫌そうな九郎さんに向かって、ビシッと指を指す。
人を指差しちゃいけない、なんて突っ込みは無し!
「何となくって言っちゃえばそれまでなんだけど…、何か妙なんですよね」
「妙…ですか?」
不思議そうな弁慶さんに、小さく頷いて。
少し考える素振りを見せる。
「何て言ったらいいのか…でも、人外の力を感じるんです。政子様から…」
「人外の力?それは、姫君たちのような力のことかい?」
「うん、似てると言えば似てるかな。ただ…もっと淀んでる気がするけど…」
そんな私達の会話に、一人顔色を変えた人物がいて。
それを、私が見逃すはずもなく。
恐らく、私だけじゃない。
弁慶さんやヒノエくんを初め、そこにいたほとんどの人が気づいたと思う。
「何か知ってますよね?景時さん…?」
そう、彼の様子に…。
私の言葉に、景時さんはビクッと小さく反応して。
だけれど、直ぐに困ったような…少し悲しそうな笑みを浮かべた。
「そっか…気づいちゃったんだね」
「それじゃ、やっぱり…」
「そうだよ…。ちゃん、荼吉尼天って知ってる?」
荼吉尼天…?
聞いたことがあるような気がするけど。
確か、どこか別の国の神様だったような…?
「その荼吉尼天がどうかしたのか?」
私が答えるよりも先に、九郎さんが先を促した。
まぁ、確かに聞いたほうが早いんだろうけど。
ちょっと、思い出せなかったことに悔しさを感じてたり。
仕方ないけど…。
「荼吉尼天っていうのは、異国の神だったんだけどね。実は…」
言いにくそうに一度言葉を切った景時さん。
だけど、そこで一つの考えが浮かんできた。
「もしかして、その荼吉尼天が…政子様に?」
自分でも信じられないような答え。
でも…あり得ないことじゃない。
私があの船の上で感じた力…あれは人の持っていいような力じゃなかった。
恐怖すら感じたあの力が…荼吉尼天のものだったとしたら?
「そうだよ、ちゃん。今…政子様の中には荼吉尼天がいる」
「源氏を…鎌倉を守護する神がいるとは、兄上から聞いていたが…」
「それが、まさか政子様についていたとは…。誤算でしたね」
難しそうな顔をして考え込む皆を他所に、私はひとり晴れ晴れとした気持ちだった。
だって…今までの疑問が全て解けたんだもの。
幾度となく見てきた、あのとてつもない力を手に入れたような…二人の嫌な笑みも。
全てを見透かしたような、あの政子様の瞳も。
何もかも全て…。
心に引っかかっていたものが、無くなっていった。
「それなら、簡単でいいと思いますけど?」
場の空気を読め!と言われそうなくらいの笑みで、皆に向かって言う。
そんな私を、ヒノエくんだけは面白そうな…そんな笑みで見ていたけれど。
「神様の相手は神様に。ね?これが一番でしょ」
口を開きかけた、九郎さんを制するように先に言ってやる。
しかも、にっこりと有無を言わせないと言わんばかりの笑顔で。
「こうなったら、何を言っても無駄でしょうね」
「やっぱり、弁慶さんは話が早くて助かります」
「少し、自分でも君に甘い気がしてますが」
「昔は厳しかったんですから、今くらいはいいじゃないですか?」
「本当に、きみには敵いませんね…」
苦笑気味の弁慶さんに、軽く調子で言葉を返す。
そんな私達の様子に、皆も弁慶さんが言うなら…といったご様子で。
まぁ、ちょっと約一名、納得いかないような顔をしてらっしゃるけど。
九郎さん、眉間の皺…跡になりますよー?
「敵陣に一人になるっていうのに…どうやら余裕のようだね。オレの姫君は」
「だって、皆のこと信じてるもの」
ヒノエくんの笑みに、自分も笑みを返す。
確かに和議が失敗すれば、確実に命を落とす位置にいる。
だけど、私には失敗するなんて微塵も思ってない。
だから、平気。
余裕に決まってるじゃない。
「それに、危険なのは皆一緒だし…私は一人じゃないしね」
皆それぞれ、危険な戦いになる。
上手くいけば、周りは皆味方。
でも、一歩間違えば…全員が敵。
それでも、負けるわけにはいかない。
「皆がいてくれるし…、それに…」
「あちら側には、将臣がいるからだろう?」
九郎さんの言葉に、一瞬キョトンとしてしまう。
顔は逸らされてしまってよく分からないけど…怒ってるのか照れてるのか。
どっちにしても、不機嫌そうな顔でしかないんだけど。
多分…後者だろうな。
なんて考えたら、自然と笑みが零れた。
「そうだよ。私、将臣くんのこと信じてるもの。九郎さんだってそうでしょ?」
なんだ、心配して損した。
信じてないとは思わなかったけど、ちょっと色々と危うい感じだったから。
一言二言、言うべきかな〜って思ったんだけどね。
やっぱり、そんなの必要ないみたい。
「あいつは俺達の仲間なんだ、信じているに決まってるだろう」
還内府といえば、平家の要とも言える人物で、源氏の宿敵…。
彼の戦術で、源氏は多くの犠牲を払ってきた。
だから…
還内府は将臣くん。
その事実を受け入れるには時間が足りないかもしれないと、そう思った。
この一番大事なときに、仲間割れもありえると…そう思っていた。
だけど…そんなことは無くて。
九郎さんを初め、誰一人として『有川将臣』という人物を否定する事は無かった。
「いい男になったよね。九郎さん」
なんて、ちょっと悪戯心でからかったら…案の定真っ赤になったけど。
だけど…嘘じゃないから、怒らないでね?
++++++++++++++++++++++++++
「あら、随分と閑散としていますのね」
私の前に現れた政子さんは、前と同じ笑みを浮かべていて。
以前は、その笑みが何を考えているのか分からなくて…不安だった。
でも…今は違う。
今はもう不安なんてない。
「私のお相手は、お嬢さん一人だけなのですか?せっかく平家との和議を結びに参りましたのに」
「政子さん、その言葉は本当ですか?」
その言葉、通り和議が結ばれる事を願っていた。
でも、叶わなかったから…あの悲しい運命を辿ってしまった。
「ふふ…まぁ、怖いこと。可愛いお嬢さんにそんな風に睨まれてしまうなんて…」
『私、どうしたらよいのでしょうね』と、政子さんはくすくす笑って。
だけれど、瞳は笑っていなかった。
威圧感さえ感じる視線。
そっか…は、一人でずっとこの瞳と戦ってたんだね…。
私達を守ろうと、必死で…。
「ええ、本当は違いますわ。源氏を勝たせるために参りましたの」
だからね。
今度は、私が戦うよ。
皆を、この世界を。そして…あなたを守るために。
「和議にみせかけて…ですか」
「正解ですわ。ふふ、よくご存知ですのね」
知ってますよ。
嫌ってくらい思い知らされて…絶望すら感じてしまったから…。
だから今度は絶対に…
「私はあなたを止めて見せます」
どんなことがあろうとも。
この和議を、成功させてみせる。
「まぁ、けれどすでに事は動き始めていますのよ?私はここにいて、けれど私の身はすでにここにはおりませんもの」
そう言った政子さんは、ただ面白がっている…そうとしか思えなくて。
『残念ですわね。直ぐに和議も始められてしまいますわ』
その言葉には、自分に敗北は無いという意思が込められていた。
「それはどうでしょうね、政子さん?」
でも、私には皆が居る。
だから…負けない。
「私一人では、あなたを止めることは出来ないかもしれない。ずっと、止めることはできなかった…」
でも、今回は違う。
「けれど、私は…一人じゃない。八葉が、白龍が、朔が…そしてがいるから…一人じゃない」
私が言った彼女の名前。
熊野で死んだ事になっている、の名前に政子さんは小さくだけれど…確実に反応して。
それでも、驚きの後に浮かべた笑みに…
少しでも嬉しそうな印象を受けたのは気のせいじゃない、よね…?
「それで、お嬢さんはどうするつもりですの?」
「本当の和議を結んでもらいます」
そして…
もう、平家との戦は止めて…この悲しい争いを終らせて頂きます。
「風向きが変わったのに、気づかれましたか?後白河院」
「熊野別当…それにしても、そなたが動くとはな」
「船は帆に春風をはらめば動くもの。熊野はいつも、そうですよ」
「いいね、みんな。平家がちょっかい出してきても、絶対に手を出しちゃだめだよ」
「本当に和議なんて成るんですか?」
「ええ、必ず。どうか兄上を、私達を信じて」
「梶原様がおっしゃるんだ、きっと大丈夫だ」
「重盛、本気で言うておるのか!!」
「ああ」
「どうか伯父上…!」
「そなたら、本気で…あの源氏の若造に会えと?」
「くだらん」
「兄上!」
「平家が動けば、院宣は変わりましょう。賊という名をお受けになりますか?」
「………」
「源氏が皆が幸せに暮らす世を作れるのは、兄上、貴方の決断なんです」
八葉の皆と、白龍。
朔と私…そして…
「久しぶりですね。経正さん」
「やはり、還内府殿の言う通りでしたね。本当にあなたが来るとは…。ではこの和議…」
「はい。必ず成功させて見せます」
。
あなたの願う未来のために―――…
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あとがき
何か色々すっ飛ばしてる気が(汗)
えーっと、会話とか色々うろ覚えだったりするので、その辺は深く突っ込まないでください…っ。
ゲームに繋ぐ気力が無かった…っていうか、むしろ面倒…
此処から先、少し話の進みが速いかも?
ラストが射程距離内に入りました!…多分(ォィ)