music by 煉獄庭園
皆にもついてきてほしい
を救うために…一緒に来て欲しかった
でもそれは、私の我侭だったから
だから…
『行けない』
その一言が返って来るんじゃないかって
とても不安だった―――…
時空を超えて
誰もが望美の言葉に耳を疑った。
『皆にも手伝ってほしい』
を死なせないために。
救うために、この運命を変えたいと望美は言って。
オレたちに共に来てくれと、頭を下げた。
そのときのオレ達は、誰もが同じ思いだっただろう。
なんで頭を下げる?
そんな必要なんてないだろう?
と…。
むしろオレ達は感謝すべき立場なのに。
にもう一度会える…。
彼女を失わずに済むかもしれない。
その希望を与えてくれた望美に…。
『頼まなくたって、こいつ等の答えなんて一つしかねぇだろ』
突然現れた将臣に驚きを隠せないながらも、誰もがアイツの言葉に頷いた。
もう一度会いたい。
ずっとそう思っていたのに、誰が断ると言うのだろう。
「本当に、ついてきてくれる…の?」
望美は、オレ達の答えを信じられないといったような顔だ。
彼女としても不安だったんだろう。
オレ達が受け入れるか否か。
心なしか、体が震えているようにも見える。
「当たり前だろう?あいつを救えるかもしれないというのに、大人しくしていられるか」
「で、でも九郎さん。…また、戦をしなきゃならないんですよ…?」
「だから何だ」
たとえを失っていようとも、戦には勝利したのに。
時空を超えれば、また戦が待ってる。
そう心配する望美に、九郎はお得意の仏頂面で答えを返した。
「望美さん。僕達にとって、それは大したことじゃないんですよ。さんがいないことに比べたら、ね…」
「弁慶さん…」
「そうそう、だから姫君がそんなに心配する必要は無いよ」
戦に再び身を投じることが、大したことじゃないわけないのに。
それでも、それが『大したことじゃない』と言えるほど、オレ達は今の状況の方が…
を失った事の方が、辛かった。
「ま、戦の結果は何度やっても同じだろうしね」
「相変わらずの自信ですね。ヒノエ」
「当然だろ?オレは何度やったって負けるつもりは無いぜ?」
「まぁ、それは僕も同じですがね」
こうやって、弁慶と軽口を叩き合うのも久しぶりだ。
そんなオレ達を、呆れたように苦笑いを浮かべながら見る皆の姿も。
どちらもあの日以来、失われてしまったもの…。
「でも、ま、意外だったかな」
「何がです?」
「アンタが、大したこと無いって言ったことがだよ」
オレは他の誰が承諾しようとも、弁慶だけは首を縦に振らないと思ってた。
この運命を変えることに…。
一度つかんだ勝利を、手放してしまう事にね。
「どんな犠牲を払ってでも、戦に勝つことが全て。だろ?源氏方軍師さん」
「相変わらず、嫌な言い方をしますね。きみは」
オレの意地悪い笑みに、弁慶は苦笑して。
一体誰に似たんでしょうね?と呟いた。
アンタだよ。アンタ。
口に出して言ってやろうかと思ったけど、とりあえず話が進まなくなるので止めておいた。
「僕にとって、今一番大切なのは何かという話だっただけですよ」
「なるほど、ね…」
弁慶の言葉は、決して明確な答えとは言えなかったけれど。
それでも、納得するには十分だった。
オレもそうだからね…。
「それと望美さん。話の通りなら、これから僕達が会うであろうさんは、『今』の僕達を知らないんですよね?」
「はい。そうなります」
まぁ、それが当然だろうね。
にあるのは、その時空までのオレ達の記憶だけだろうから。
共に壇ノ浦で戦った事も、全て経験してないんだから記憶にあるわけがない。
「そうですか…」
「アンタ、一体何企んでるんだよ?」
明らかに、楽しそうな笑みを浮かべる弁慶に、思わず眉を寄せる。
「いえ、大したことじゃないですよ?」
「アンタがそういう顔してる時は、信用できないんだけどね」
「おや、心外ですね。そうですね、ただ単に僕にもまだ望みはあるかなって思っただけですよ」
「望み?ってまさか…」
「ええ。多分、ヒノエが思ってる通りで間違いないでしょうね」
「冗談じゃないぜ。誰がアンタなんかにを渡すかよ」
いくら、全ての記憶があるわけじゃなくたって。
これまでオレと共にいた時間で、知らないことがあったって。
アンタに付け入られるような隙は無い。
を奪われるつもりなんて、毛頭ないに決まってるだろ。
「ったく、ホントに相変わらずだな。お前ら」
将臣が呆れたように言って。
その言葉に、誰もが同意した。
「まぁ、冗談はこの辺にして。詳しく話を聞かせてくれるかい?望美」
「うん。もちろん」
強く頷いた望美は、リズ先生と白龍に視線を向けた。
二人とも、望美と同じく力強く頷いて。
詳しい話と共に、これからのことも全て話し始めた。
「じゃあ、半刻後にここに集合でいい?」
「うん。大丈夫だよ、神子」
この人数を同時に時空移動するとなると、いくら白龍といえど多少の準備が必要になるとのことで。
オレたちは、各自武器などの準備を整えた後、再びここに集合という形をとった。
それぞれ、バラバラと部屋を後にする。
「望美は戻らないのかい?」
「うん。私は特に何もないから…」
全員が部屋を後にする中、一人動かない望美に部屋を出る前に声をかける。
オレの質問に、望美は苦笑に近い笑みを返した。
「私は、慣れてるから…」
だから、心の準備も必要ないの。とそう言って。
その表情がとても、辛そうに見えた。
「あのさ、望美。巻き込んだって思ってるなら、気にしない方がいいぜ?」
「え?」
「違うならいいけどさ。もしそう思ってるなら…って思ってね」
多分、違ってはいないだろう。
優しい神子姫のことだ。
オレ達に頼んだことは、自分の我侭だと思って…。
自分の我侭にオレ達を巻き込んだと、そう思ってるのだろう。
「オレ達は全員、自分の意思でついていくと決めたんだしね。姫君が気に病むことじゃないさ」
「ヒノエくん…」
オレの言葉に、少し驚いたあと、望美は微笑んだ。
『ありがとう』と…。
望美の微笑みに、安心したようにオレも笑みを返して。
彼女に背を向けると、部屋を出ようと障子に手をかけた。
だけれど、廊下へと踏み出そうとして、一度足を止める。
「望美」
オレの呼びかけに、望美が不思議そうな視線をオレに向ける。
そんな彼女の視線を背で感じながら、オレは言葉を続けた。
「ありがとう…」
廊下へと足を踏み出したとき、少しだけ見えた驚いたような表情の望美。
そんな彼女に少しだけ微笑んで。
オレはその部屋を後にした。
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可笑しい。
そう気づいたのは、目が覚めて直ぐ。
「どういうこと…?」
私は、目の前に広がる光景にただ呆然とした。
あるはずの無い光景。
夢でも見ているんじゃ無いかって思ったけれど、背に当たっている木の感触がそうではないと語っていた。
なんで…皆がいるの…?
望美や朔、八葉の皆に白龍も…。
私の視界に全員が捉えられていて。
なんで?
どうして?
そんな疑問ばかり浮かんで、気持ちばかり焦る。
落ち着け。
とにかく、落ち着いて思い出しなさい。
確か私は…
「勝どきをあげろ!!この戦、我々源氏の勝利だ!!」
清盛を倒して…、望美が彼を封印した。
長きに渡った源氏と平家の争いは、源氏の勝利で幕を閉じて。
「彼らに危害を加えるというなら…私はあなたを殺します」
九郎さんを、謀反の罪で処すると言った政子様に刀を向けて。
ここまでは、間違いないはずだ。
でも、私には政子様を殺すつもりなんて全くなくて。
だからと言って、九郎さんを殺させるつもりも…
皆に危害を加えさせる気も無かった。
だから…選択したはずだ。
近いうちに失う命なら、一つでも多く…皆の役に立っていきたい。
少しでも多く、皆を守りたい。
そう思って…自らの命をかけることを。
じゃあ、何で皆がここにいるの?
何で、私はまだ皆の側にいるの?
私は…死んだはずなのに…。
あれが夢だったとでも言うの?
ううん、そんなこと…あるはずない。
だって、覚えてるもの。
九郎さんを傷つけた感触も。
自分が斬られる感触も…。
最後に見た、皆の辛そうな顔や頬に落ちた雫。
彼の…ヒノエくんの、悲痛な呼び声も。
全てハッキリと覚えてる。
夢であるわけがない。
「じゃあ、何で生きてるのよ…」
あの傷で、どう考えたって生き延びれるはずがない。
ましてや、私は最後海へと身を投じた。
そんなことをして、生きてるはずが無いのに…。
「実際、こうやって生きてるし…」
本当に一体何がどうなっているのか。
生きてるだけじゃない。
さっきも言った通り、皆が目の前に普通にいる。
って言っても、皆眠ってるんだけど。
まぁ、この際皆が寝ていようが寝てなかろうが関係なくて。
問題は…
「傷が一つも残ってないってことよね…」
知盛と戦って出来た傷も。
九郎さんと戦ったときの傷も全て、跡形も無く消えている。
仮に、皆が私を何らかの方法で助けたとしても、傷が無いなんてあり得ない。
一体何なのよ…。
『お前は来るな、よ…』
「あ…」
不意に甦った言葉に、思わず声を漏らした。
そうだ、確か…私はあの時も同じように、この言葉を思い出した気がする。
彼…知盛と同じように、海へと身を投じた時に…間違いなく。
それでその後…
「まだ来るには早いだろう…」
思わず声に出していた。
海の中で聞こえた…二度と聞こえるはずがない声を。
あれは、間違いなく知盛の声だった。
彼は死んだはずなのに。
私が殺してしまったのに…。
「変なの…」
ははっと、乾いた笑いを浮かべる。
幻聴が聞こえるほど、私は悔やんでいたんだろうか?
知盛を殺めてしまったことを…。
だけれど、その声を聞いてからの記憶が無い。
水の中で意識を失ったんだろうか?
でも、もしも…もしもよ?
アレが幻聴じゃないとしたら?
何で生きてるのか?
何故、傷が消えてるのか?
どうして、皆がいるのか?
どんなに考えたって出てこない答え。
それに加えて、今の状況。
混乱する頭が考え出すのは、非現実的なことばかり。
だけど…
「知盛が、助けてくれた…?まさかね…?」
そんなこと、あるはずがない。
彼は死んだ。
私よりも先に…。
あんな鎧を身につけて海へと身を投じたら、生き延びれるはずがない。
それに…あれだけの覚悟を持って海へと消えた彼が、生き延びるなんて選択をするはずがないから。
つまりは、やっぱりどう考えたって知盛が生きてる確率は、全くの零だっていうわけで。
っていうか、とうとう私も頭が可笑しくなった?
いや、それはさすがにないと思いたい。
馬鹿は一度死ねば治るモンよ!(何か違う)
「じゃあ、何?知盛の幽霊とか?」
「おいおい、アイツを勝手に殺すなよな」
分からん!と頭を抱えた瞬間、頭の上から声がした。
顔を上げてみると、そこには見知った鮮やかな青色。
「将臣、くん…?本物?」
「、お前寝ぼけてるのか?オレじゃなきゃ誰だって言うんだよ」
呆れたように笑うのは、やっぱり間違いなく将臣くんだった。
ちょ、ちょっと待ってよ。
将臣くんは、もういないはずでしょ?
清盛と道を違えて…どこか遠くへ、落ち延びたはずじゃないの?
じゃあ、何でここにいるのよ?
っていうか、ちょっと待て。
「知盛って、生きてるの…?」
「は?当たり前だろ」
っつーか、アイツを殺せる奴なんかそうそういねーぞ。
と、将臣くんはますます苦笑を濃くしていったけど。
そんなの私は気にもならなくて。
知盛が生きてる…?
しかも、今の口ぶりからして…あの後生き延びたとか、そんな様子じゃない。
必死で頭をフル回転させる。
何故だか私が生きていて。
傷も綺麗に消えていて。
何より、皆がまだ側にいる。
加えて、いるはずの無い将臣くんがここにいて。
更には、死んだはずの知盛が生きてる…。
と、言う事は。
そこまで考えて、一つの仮説に辿り着く。
この非現実的なあり得ない状況を、全て説明できてしまうものが、一つだけあるじゃない。
応龍の宝珠。
その存在自体が、すでに非現実的なものが…。
「お前、ホントに大丈夫かよ?体調でも悪いんじゃねぇか?」
「ねぇ、将臣くん…。一つだけ聞いてもいい?」
私の様子が可笑しい事を心配したのか、将臣くんが屈んで私の顔を覗きこんだ。
そんな将臣くんに、恐る恐る尋ねる。
自分の仮説は、あり得ない。
あるはずが無い。
でも、それしか考えられないと、二つの思いが交差する。
「今、私達が向かってるのって何処?」
現在地はどう見たって、山の中。
そして夜だっていうのに、とても蒸し暑くて。
さらには、私達と一緒に将臣くんが行動してる。
それは…あの夏の終わりを示してるんじゃないかって、そう思えた。
そうとしか、思えなかった。
「何処ってお前…吉野の里だろ?」
そして将臣くんの言葉が、私に自分の仮説は正しいと確信させた。
今までの望美がそうだったように…
私も時空を超えてきたのだと―――…。
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あとがき
何か、色々変な文章ですみません(汗)
物語も、やっとのことで地の底から這い上がってきてます。
きっと、カンの良い方なら今後の展開が少し分かってるのでないかと(笑)
久々にヒロインの登場です!
一応、折角浮上してますが、また何処かで落ちるつもりです。
…って、そんなことしてるからもうすぐ終わりとか言っておいて、全然終わる気配がないんですが(苦笑)