music by Sence Citcuit





どんなに恨まれようと…
どんな手を使ってでも…

守りたい

その気持ち…
今なら分かるよ―――…?





似て非なるもの





戦いの喧騒が辺りを包む中、私はある色を目で追っていた。
どこにいても…すぐに分かるあの緋色を…。

ヒノエくんとは、昨日の夜に別れてから一言も交わしていない。
朝会った時も、作戦を話しているときにも…私は彼を避けていた。
謝らなきゃ、って思うのに…ごめんねって言うだけなのに…そのたった一言すら言えなくて。

都合が悪くなると避けてしまう。
昔も今も変わって無い…成長なんてしてない…。
ホントに…こんな自分に嫌気がさしてくる。

「余所見とはいい度胸―――…っ!?」
「甘い」

飛び掛ってきた敵の兵士の刀を、身を屈めて避けて。
間髪いれずに自身の刀を一振り、横になぎ払う。

「ぐ…ぁ…っ」

両足を深く傷つけられた兵士は、その場に崩れ落ちた。
傷口を押さえてうめき声を上げている。

「死ぬような怪我じゃないんだから、ちょっとは我慢しなさいよ」

そりゃ痛いのは分かるけど。
大の男が情けないったらないわね。

そう思いながら、心の中でため息をついたけれど。
私が一番ため息をつきたいのは、自分自身に対してだった。

『死ぬような怪我じゃないんだから、ちょっとは我慢しなさいよ』

今言った台詞には、機嫌が悪い事がアリアリと現れている。
いつもなら、そんな言葉は言わないし。
ましてや、本気でそんなこと思ってるわけじゃない。
ただの八つ当たり。
全く…昨日、あれだけ反省したっていうのに…全く変わって無い。

「ね、清盛の船はどこ?」

とりあえず、反省は後回しにして…清盛の居場所を聞き出そうとする。
じゃなければ、生かした意味が無い。
私は視線を合わせようと、その場に片膝をつく。

「だ…誰がお前らなんかに!」
「教えないって言うの?」
「あ、当たり前だ!敵に情報を流すなど…っ」
「ふーん…。勇ましい事ね」
「この命に代えても…!」
「教える気は無いって言いたい?」
「お…脅しても無駄だ…っ」

焦り、怯え、そういったものを含んでいる兵士の言動。
それにわざとらしく笑みを浮かべながら、余裕で受け答えする。
別に、脅してるつもりは無いんだけど?

「分かったわ」

にっこりと笑みを浮かべて、立ち上がる。
そんな私を兵士は一瞬、なんとも言えないような表情で見上げた。
言うなれば、安堵と不安が入り混じったような表情。

そんな兵士に、私は相変わらず笑みを浮かべたままだったけど。
ふっと笑みを表情から消した。
スッと細めた視線と共に、浴びせるのは冷たい声。

「それなら、貴方は用済みね」
「ひぃ…っ」

まるで化け物でも見たかのような表情を兵士はした。
失礼ね、と内心怒りを燃やしたけれど、当然表情には出さない。

用済みとか言ったけど、実はまだまだ用はあるのよね。
とりあえず、清盛の居場所を吐いてもらわない限りは、用済みじゃないから。
これだけ怯えてくれてるとなると…もう一押しってところね。

カチャリ…

ダメ押しとばかりに、わざとらしく刀の鍔を鳴らす。
多少の殺気を込めれば…完璧だ。

「わ…分か…っ」

兵士が言いかけたときだった。
ゾクッと背筋を、何か嫌なものが流れて、思わず勢いよく後ろを振り返る。
そこには誰もいなかったし、ましてや怨霊の類がいたわけではないけれど…。

感じる…。
この…黒く淀んだ気…。
これは…。

!大丈夫!?」

視界に飛び込んできたのは望美。
他にも、何人かの八葉の皆がいて。
すぐに遅れて、残りの皆も続々と集まった。

「こっちも終わったよ。そっちは大丈夫だった?」

ハッと我に返って、笑みを返す。
だけれど…さっき感じた気は、どんどん強く濃くなっていた。

「うん、問題ないよ。…どうかしたの?」

望美は気づいてないのだろうか?
この黒く淀んだ…重く暗い気に…。

違う、私が気を感じてるんじゃない。
これは…私の中の宝珠が反応してるんだ…。
それなら、この気は…黒龍?

「そこの兵士さん」
「え…?」
「やっぱり教えてくれなくてもいいよ。その必要も無いみたいだから」

私の背後で何事かと、怯えていた兵士に声をかける。
本人は一体何を言われてるのか、分かってはいなかったみたいだけれど。

、清盛の居場所は…」
「あっちで間違いないと思うよ、九郎さん」

私は視線を向けていた方向を真っ直ぐと指差した。
まだ少し距離はあるけれど、一部だけ空に不自然な黒い雲が見える。
遠目でしか分からないけど、心なしかあの雲の下だけ波が荒れている。

「あの雲の下の中心に…清盛がいる」
「あまり良い感じはしないな…。だが、伯父上がいるとすればあそこで間違いないだろう」

敦盛さんの見つめる瞳は、少しまだ困惑の色が浮かんでいた。
きっと…辛いだろうな。
怨霊になってるとはいえ、肉親に間違いは無いんだから。

「敦盛、迷いがあるのか?」
「いいえ、リズ先生。私はとうに覚悟しております」
「そうか…。それならば、私が言う事はあるまい」

同じ玄武の守護を受けてるからなのか、どうなのかは分からないけど…。
この二人って、いつの間にか良い信頼関係が築かれてたのよね。
リズ先生って、元々から保護者的な役割持ってたけど…特に敦盛さんに関してはね。

「さっきまで、あんな雲なかったからね〜」
「ええ。さっきまであの雲どころか、雲一つありませんでしたから」
「それに、あそこだけ海が荒れてるっていうのも不自然だしね。突っ込んでも大丈夫かな〜?」

景時さんの言葉に、譲くんも同意した。
誰もが、不安そうに荒れている海を見つめている。
確かに、かなりの操縦技術がないと、波をモロにくらって船がバラバラになってしまいそうだ。

「その点は問題ないと思いますよ、景時。ヒノエ…行けそうですか?」
「見くびってもらっちゃ困るね。あのくらい、熊野水軍にはお手の物さ。野郎共!準備はいいか!?」
「もちろんでさ、頭領!」
「と、言うわけですよ。彼らなら大丈夫でしょう」

あーあ、弁慶さんもヒノエくんも何か楽しそうに見えるわ。
逆境にっていうわけではないけれど、困難な道ほど燃えるって感じね、まさに。

「本当に心強いな…」
「ヒノエくんが仲間で、本当に良かったですね。九郎さん」
「ああ。だが、その分俺達も負けてはいられない。特に怨霊は、普通の兵士には厳しい相手だからな」
「封印できるのは、私とだけですから…。頑張らなくちゃいけませんね」

本当に、どんな戦いの中でも自分を見失わない人ばっかり。
もう、清盛は目と鼻の先にいるのに…。
緊張と圧し掛かる重圧で、押しつぶされたっておかしくないはずなのに。
こんな風に、いつもと変わらない様子で言葉を交わしてるんだから。

でも…
こんな会話を聞けるのも…これが最後、かな…。

、どうかした?」
「顔色があまり良くないわ。昨日の傷がまだ痛むんじゃ…」
「朔…白龍、大丈夫だよ。何でもないから。ただ、皆ホントに強いなって思ってね」

変なことを考えてたのが、顔に出てたのだろうか。
白龍と朔が心配そうに声をかけてきた。
私は二人に、心配ないと微笑む。

だって、十分強いと思うわ」
「うん、は強いよ?」
「ありがとう…」

だけどね…私は強くなんてないよ?
皆みたいに、本当の強さなんて持ってない…。

「少なくとも…私よりは強いわ…」
「朔…」

困ったような笑みを浮かべて、私に言った朔。
きっと、黒龍のことを言ってるんだろう。

朔と黒龍は、所謂恋人同士だった。
だけれど、力を失って…逆鱗だけの存在になってしまった。
でも、朔は…黒龍が消えてしまったと思ってる。
私も、彼女に『まだ黒龍は消えてない』と、告げられずにいた。

逆鱗だけの存在になってしまった黒龍。
彼を助ける方法を、私は知らないから。
淡い期待を抱かせて、もしも彼を助けられなかった時…
彼女の受ける絶望は…計り知れないものだろうから…。

そう考えると…易々と言えなかった。
教えてあげたい。
でも、教えられない。
二つの思いが、私の中で交錯する。

「あ、ごめんなさい。こんなことを貴女に言うなんて…」
「ううん。気にしないで。…大丈夫だから」

大丈夫。
きっと…黒龍を助ける道は…ある。
だから、もう少しだけ…待っててね。

「さてと、準備はいいかい?姫君たち」
「もちろん!ヒノエくん頼りにしてるからね?」
「そうね、行きましょう」
「どうやら、姫君たちの様子なら大丈夫そうだね」

自信に溢れた笑みを浮かべたヒノエくんに、元気良く答える望美。
朔も笑みで問いに答えて。
二人の様子に、ヒノエくんも満足そうだった。

「あ…」

突然ハタと合った視線に、一瞬声を上げてしまう。
だけど、すぐに目を背けた。

なんか気まずい…。
どうやらヒノエくんも、そう思ってるみたいで。
不思議そうな顔をする望美たちに、苦笑にも近い笑みを返していた。















「やっと来おったか…。待っておったぞ、応龍の神子」
「約束なんてした覚え、全くないんだけど?」
「相変わらずよの、その物言いは」

高笑いにも近い笑い声を、清盛はあげた。
清盛のいる船に、飛び移ったと同時にこれだもんなぁ。
嫌になったちゃうわ。

「私は、あなたと話してる時間は無いのよね」

だから、さっさと終わらせない?
と、ため息をつきつつ挑発するような笑みを向ける。

「私はあなたの持ってる黒龍の逆鱗を奪いたい。あなたは私に宿ってる応龍の宝珠を奪いたい」

私の後ろで、朔がビクッと反応したのが分かった。
黒龍の逆鱗、それをこんなところで聞くなんて思ってなかったのだろう。

「だったら、話は簡単よね?その奪い合い、さっさと始めましょうよ」
「いい度胸だな。よかろう、仲間共々この逆鱗の力の前にひれ伏すがよい!!」

清盛が懐からとりだした、黒真珠のように鈍い光を放つ鱗。
それを中心とするかのように、さらに暗雲がたちこめて…海は荒れた。
船が大きくゆれ、立っているのも困難な状況になる。

…あれが本当に清盛なの?」
「そうだよ。子供の姿をしてはいるけど…間違いない」

顔に掛かる波飛沫が煩わしい。
荒れる海は、視界さえも奪ってしまう。

「長引くと、状況が悪くなるだけだな…」
「ここは早く決着をつけた方がいいですね」

九郎さんと弁慶さんが、いつの間にか直ぐ後ろにいた。
確かに、これは時間をかけたらマズイ。
いつ船が横転してしまうか分からないし…。

でも、この陰の気が立ちこめる中…速攻で勝負をつけるというのは容易ではないだろう。
清盛に近づくことすら、困難だしね…。
いくら神子と八葉だからって、陰の気に当てられかねない。
百歩譲って望美は大丈夫でも、一人でどうにかなるものじゃないから…。
やっぱり、全員で近づける方法を探さないと…。

神子…我らの神子…

不意に頭に響いた声。
この感覚、覚えがある…。
福原で聞いた、黒龍の声と同じ感覚。

「黒龍…?」

我が力を抑える…。
その隙に、この者を封印するがいい…。


「力を抑えるって…出来るの?」

少しの間だけだが…可能だ…。
まだ、そのくらいの力は残っている…。


「そっか…。分かった」

小さい声で黒龍に返事をして、私はキッと清盛を睨んだ。
黒龍が力を抑えてくれるなら、近づけるはず。
まずは、あの逆鱗を何とかしないと…。

「望美、皆もちょっと耳を貸して」

全員に聞こえるように。
でも、清盛には届かない程度の大きさの声で、私は皆に自分の考えを伝える。

待っててね…?
必ず助けて見せるから。
逆鱗さえ取り戻せれば、きっと…あなたが力を取り戻す方法も見つけられる。
これ以上、清盛の良いようにはさせない。

「やれますか?」
「だが…それではお前一人が…っ」
「危険なのは私一人で十分です」

私が提案した作戦は、ごく簡単なもの。
要は私が囮になるから、その隙に皆で清盛を封印してもらうという事なんだけど。

「また馬鹿なことを言うつもりか、お前は!」
「馬鹿なことじゃないよ、九郎さん。これが一番合理的じゃない」

皆も分かってるはずだよ?
全員で飛び掛ったって、逆鱗の力には苦戦してしまうってこと。
まずは、清盛を倒す事よりも、逆鱗を奪ってしまう事の方が優先だっていうことも分かってるでしょう?

「あいつは、私の中の宝珠を狙ってる。なら、向こうだって近づきたいはず」

向こうからわざわざ近づいてきてくれるって言うなら、簡単に囮になれる。
宝珠を目の前にして、必ず相手にも隙が生じるから…。
逆鱗を奪う事も、容易ではないにしろ難しくはないだろうしね。

「こんなに囮役に持って来いの人選は、他にないと思うけど?」










「どうした?この期に及んで怖気づいたか、八葉」
「その余裕、いつまで続くかしらね?」

清盛と自分の間合いギリギリまで歩を進める。
清盛は、私の姿に少し驚いたようだった。

「狙われている者自ら、我に近づくとはな…」
「逃げていたって、どうせ無駄でしょう?」

私が近づかなければ、そっちから近づいてくるに決まってる。
なら、自分から近づいたほうがリスクは少ない。

本当はね、少しだけ話がしたかったっていうのも本音なの。
あなたと私は、似ているから…。

「仲間に守ってもらえばよかろう?」
「冗談。わざわざ仲間を危険に晒すようなこと、するわけないでしょう?あなただって本当は同じなんじゃない?」
「我が…?面白い事を言うな」
「だって、本当のことじゃない。あなたが逆鱗を手にしたのも、怨霊を作ったのも…一族のためでしょう?」

自分がどう思われようと。
どんなに危険な目にあおうとも…守りたいものがあった。
だから、その逆鱗を手にしたんでしょう?
私にも、その気持ち…分かるよ?

でもね…ただ…

ただね、あなたは途中から…自分を見失ってしまってる。
あなたと私は似てる…でも…決定的に違う。
私は、自分を見失いそうになったとき…手を差し伸べてくれた仲間の手を取る事ができた。

あなたも…いたはずだよ?
手を差し伸べてくれる人が、大勢…。
彼らの手を、あなたは取るべきだった…。

「…否定はせぬ。一族の復興のため、お主の持つ宝珠を渡してもらおうか」
「復興…ね。だったら自慢の息子は何処に行ったの?」

ちゃんと分かって…認めてる?
自分は見放されたんだって…。
還内府である将臣くんは…貴方と違う道を選んだんだって…。
将臣くんも、知盛も…皆いない復興なんてあるわけないでしょう?

「…そんなに死に急ぎたいか」

清盛の声が、急に低くなった。
先ほどよりも、更に威圧感が増してくる。

馬鹿ね…。

だけど、その威圧感なんて全く気にしない。
それどころか、心の中で笑みを形作る。

「お主の宝珠、いただこうか」

スッと、清盛が動いた。
人間のスピードとは思えないそれに、思わず目を見張る。
気づいた時には、懐ギリギリに清盛の姿があった。

「終わりだ」

清盛が私に触れる瞬間…辺りに立ち込めていた陰の気が急激に弱まった。
咄嗟に目を見開いた清盛に、フッと笑みを浮かべて。

終わり…?
悪いけど、それは…

「こっちの台詞よ」














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あとがき
長くなったので、変なところですが切りました。
相変わらず、メチャメチャな文章というか何というか(苦笑)
しかも、中途半端。
何でこんなに、清盛編が短いかって言うと…まぁ、面倒だっt
いやいやいや、清盛よりも重要なのは次の登場人物なので。
ここは軽くさらっと書きました。
名前変換も少なければ、ヒノエの出番も少ない…何とも救いようのない一品と化しました(汗)
つ、次は頑張ります…っ(ホントか?)