music by 光闇世界






法皇からお前の願いを聞いたとき、一瞬不安になった…

オレはを幸せにしたい。
でも、幸せにしたら…
お前が消えてしまうんじゃないかって…

だけれど…お前は
オレと一緒に生きたいと、そう思ってくれてるって…
思ってもいいだろ―――…?





強まる力





皆から話を聞いて、怪異が起きている場所を知った私。
話によれば、下鴨神社・鳥羽離宮・仁和寺の三ヵ所で起きてるらしいんだけど…。
これまた…見事に五行の流れが強そうな場所ばっかり、チョイスされたものね。
ま、神泉苑が狙われなかっただけマシか。

「僕達は、怪異を調べに行ってきます。それでさんですが…」

どこから調べに行くのか、とか手分けをするのかしないのか、といった話になったときだった。
弁慶さんが、突然私の方を振り向いた。
だけれど、私だって承知している事。

「分かってますよ。別行動、ですよね?」
「まぁ、簡単に言えばそうですね」

弁慶さんは微笑んで。
大丈夫ですよ。分かってますって。
一応私は死んでる事になっているから、京で皆と行動していて、目撃されでもしたら大変だ。
京には法皇様がいるからね…。
頼朝や政子様よりも、もしかしたらこっちの方が厄介かもしれない。

「えぇ!?、また一人で行動するの?」

望美が突然声を上げた。
どうやら、納得いかないご様子。

「仕方ないよ。こればっかりはね」

『皆に迷惑かけてもいけないし』と私が微笑むと、望美は頬を膨らませて。
『やっと、一緒に行動できると思ったのに』
と、何とも可愛い事を言ってくれた。

「それで、私は一体何をすればいいんです?」

にっこりと弁慶さんに微笑めば。
驚いたような表情を、弁慶さんが浮かべた。

「弁慶さんの事だから、私に楽をさせてくれるって事はないでしょ?」
「おや、心外ですね。僕が何か用を押し付けるとでも?」
「ええ、思ってますよ?」

そりゃ思ってますとも。
だって、今まで一度たりとも楽させてもらった記憶が無いんですからね。
昔も今も、労りって言葉を知らないんじゃないかってくらい。
と言っても、それは私や男の人に対してだけで。
望美や朔には優しい事この上ないけれど。

「ま、冗談はこっちに置いといて。それで頼みたい事は?」
「おっと、弁慶。オレの烏を盗らないでもらいたいんだけど?」

後ろから、弁慶さんの肩に手をかけるように顔を出したのは、ヒノエくん。
その表情はニヤリと笑っているけれど…。
心なしか、黒いオーラを漂わせている時の、弁慶さんの笑みとそっくりに見えたのは…気のせいでしょうかね?

「おや、いつ僕がきみの烏を盗りましたか?」
「今だよ、今。悪いけど、烏に頼みごとも命令も、オレしか出来ないんだけど?」
「僕は盗った覚えはありませんよ?」

二人とも、にこにこ笑いながら会話しているけど。
言葉の至る所に、棘があるような…。
いつものことだから、慣れたといえば慣れたけど。

「僕は烏の彼女にではなくて、さんにお願い事をしてるんですから」
「あのな…ああ言えばこう言うの止めろよ」

『ホントに口が減らないよな、アンタ』
とヒノエくんは、呆れてるのか何なのか。
だけどそれは…

「ヒノエくんも人のこと言えないでしょ?」

ちょっと、今は二人とも黙ってもらいましょうか。
周りが黙ってみてれば、ちっとも話が進まなくなっちゃうんだから。

「とにかく、私は皆と別行動しなきゃいけないんだし。その間にやれる事はやっておかなきゃね」
「姫君は、弁慶に甘いね」

ヒノエくんがため息をつきつつ、面白くないといった顔をしたけれど。
私が甘いのは、弁慶さんだけじゃないよ?
九郎さんにも、望美にも…とにかく皆に甘いかな?
ヒノエくんにも…
…多分。

「話がズレましたね。さんにやってもらいたいのは…怪異の元凶を調べて欲しいんです」
「元凶ですか?」
「ええ。将臣くんが言ってましたが、どうやら相手は京に呪詛を施して五行の力を奪い、強い怨霊を作り出すのを目的としているみたいなんです」
「つまり、そいつは作り出した怨霊で京を襲うつもりなんだよ」

将臣くんが片手で頭を抱えて、軽くため息をついた。
その様子をジッと見ていたら

「何だ?」

と、将臣くんは不思議そうな顔をした。
私は何でもない、と首を振りながら弁慶さんへと視線を戻す。
言えないよね〜…まさか、将臣くんが元凶が誰なのか知ってるんじゃないか?なんて。
いや、多分知ってるんだろうけど。
それは、将臣くんが平家だって知らせるようなものだから、絶対に聞けない。

「でもさ、ちゃん一人で大丈夫かな〜?」
「ああ、相手が何か仕掛けてるかもしれないしな」

さすがは、軍奉行と総大将殿。
先読みは素晴らしいものがあるわね。

「確かにその可能性はあるな…。殿一人では危険かもしれない」

敦盛さんも頷いている。
平家のやり方を知ってる彼は、恐らく何となく何かあるかもしれないと感じているのかもしれない。
将臣くんは『あいつの事だからな…』とすごく小さな声で呟いていて。
私にはその声が聞こえていた。
とは言っても、どうやら他は誰も気付いていないみたいだったけど。

「大丈夫ですよ。それに一人で動いていたほうが、こういう場合は何かと便利ですし」

逃げるのにも、戦うにしても…それに何処かに忍び込むにしてもね。
こう言ったら何だけれど、要は自分がどうにかなればOKなので。
誰かが一緒だと、お互いに気遣って…それが命取りになることも、無いわけではないから。
ま、命に関わることがあるかどうかは、別だけれど。

「そうだな。確かにの言う通りかもしれん」
「そうですね…。では、さんお願いできますか?」
「もちろん。任せてください」

とは言っても、大体の目星はついてたりするんだけど。
その予想が合ってるかどうか確かめなきゃね。

え?何で目星がついてるかって?
還内府の将臣くん自ら探しに…止めに来る人物って、結構な立場にいる人ってことだし。
それに止めに来るって事は、その人物は将臣くんを無視して勝手な行動をしてるってこと。
それは、さすがに普通の兵士じゃ許されないでしょ?
ということは…勝手な行動をしても罰せられたり、ましてやそこらの兵士が非難できる人物じゃない。

清盛の血縁者か…。

ってことで、大分絞られてる。
知盛と経正さんはまず無いから。
残りの内、還内府に逆らいそうなのは…大方、平惟盛ってところか。
他の人の可能性も無きにしもあらず、だけど…可能性的には一番高い。
噂では聞いたことがある。
甦った父親を、よく思ってない息子がいるってね。










「さて、どこから調査しましょうかね」

皆を見送って、私は屋敷の屋根の上から、見渡せる範囲で京の町並みを観察していた。
相手は龍脈の流れを読んでると見て、まず間違いない。

「怨霊を作り出す、か」

つまりは、穢れが強まってるって事なんだけど…
それを、白龍すら感じ取れてないってことは、恐らく意図的に隠されてるんだろう。
それもかなり巧妙に。

「穢れが強まっても、感じ取る事のできない場所か…」

それは、つまり何かの結界の中ってこと。
結界はそれを超えて、中に入ることが難しい。
だけれど、いざ何とかして入ってしまえば…これほどいい隠れ場所はない。

「神泉苑・長岡天満宮・清水寺・比叡山…それか法住寺ってところかしらね」

これまた、結構な数があるじゃないの…。
ちょっとさすがにため息をつきたくなった。
皆が調べに行くのは三ヵ所だから、恐らく少なくとも三日はかかるだろう。
その間にこの五ヵ所を調べなきゃいけない。
人に話を聞くか…
一番良いのは、相手が姿を現してくれることよね。

『…?』

とにかく、人に紛れながら京の街中を移動していた時に、少し違和感を感じた。
一瞬、いつも記憶を読むときと同じように…流れ込んだ映像。

『…可愛い鉄鼠の餌になりなさい』
『ギ…』

あざ笑うかのような、誰かの声と後姿。
それに一瞬、呻くような怨霊の声がして…。
そこで何も見えなくなった。

「何、今の?」

今は力を使ってない。
それどころか、誰かに触れてすらいない。
記憶が見えるはずがないのに…。
一体なんだったんだろう?と疑問に思ったけれど、とにかく最初の目的地へと歩を進めた。

「比叡山は問題なしってことですか」
「ええ、特に変わったことも起きてはおりません。誰か怪しい人影を見たという報告もありませんし…」

寺の人の話では、結界内に変わったことは起きてはいなくて。
結界は毎日のように修復し、それに誰かが踏み入れれば、それが逐一分かるようになっているとのこと。
それが例えネズミ一匹であっても。

「そうですか、ありがとうございます」
「いいえ、お役に立てたなら光栄です」

お礼を言って、比叡を後にしようとしたとき、再びまた映像が頭へと流れ込んできた。

『ええ、僕はここで修行していた事があるんです』
『そうだったんですか。じゃあ、龍神についてもここで?』
『ええ、大方はそうですね。それに薬学もここで学びました』

まだ桜の咲く、春の京で。
話しているのは、紛れも無く弁慶さんと望美。
だけれど、そのどちらも今は一緒にいなくて…。
私は歩を止めて、後ろを振り返る。
見えるのは、当然寺の境内。

「もしかして…」

考えられるのは一つしかない。
これは記憶だ…誰かのじゃない、この土地の…。

の力は強まっている…。ちゃんとコントロール出来る様にしておくのよ?』

母の言葉が甦る。
力が強まっている…それは、こういうことだったんだ…。
私は、コントロールできる?
ううん、しなくちゃいけない。

『もしかしたら、見れるかもしれない』

私はゆっくりと、その場に手をついた。
意識を集中し、普段するように力を使う。
今までは、人や動物…つまり生き物の記憶しか見れなかった。
それも、あまり長くは覗けなくて…遡れる記憶は僅かだったけれど…。
もしかしたら、今なら…。
流れ込んでくる映像は、どれも普通のものだった。
寺を訪れる人、寺の法師さん達。
そのどこにも怪しいところはない。

「さすがに、少し疲れるか…」

今の時間から順を追って、記憶の時間を遡っていって。
再び、春の京が見えたとき、力を使うのを止めた。
結構長い時間、力を使っても大丈夫そうだ。
ま、本当に少し疲れるけど、何かに差し支えるほどじゃない。

「ここは本当に問題なさそうね」

そう呟きながら、この力を使えば、他のところも案外簡単に調べられるかもしれない。
と少し楽なほうに考えながら、次の目的地へと向かった。
今日中に調べるつもりなのは、もう一つ…神泉苑だ。
遠いところから、京屋敷に向かって調べていくって事で。










「おかえり、姫君。そっちはどうだった?」

帰ってすぐに迎えてくれたのはヒノエくん。
あまり疲れを見せてないところを見ると、どうやら彼らの方は、何の問題もなく順調に進んでいるらしい。

「何とかなりそうかな。とりあえず、結界のあるところに目星をつけて探ってるんだけどね」
「へぇ、やっぱりには分かってたか」

『比叡山と神泉苑には問題は無いみたいだよ』
と言えば、ヒノエくんが感心したように笑みを浮かべた。

「やっぱり、ヒノエくんも同じ考えだったりする?」
「まぁね。これだけ呪詛を施してあるんだ。それなりに怨霊の力は強まってるはずだろ?」

『それを隠しとおせる場所は、普通の場所じゃないからね』
自信たっぷりに笑って。
何だかんだ言って、やっぱり彼は鋭いんだということを再認識する。

「ということは、残りは長岡天満宮と清水寺ってところか…」
「そうなんだけど、法住寺ってことも有り得ると思うよ?」
「何でそう思うんだい?あそこは一応、法皇のいるところだろう?」

ヒノエくんの言う通り、あそこは法皇のいるところだから。
平家が怨霊を隠し、仕掛けておくとも思えない。
法皇にバレでもしたら、更に平家の立場を悪くするだけだから。

「だからこそ、余計にかな」
「法皇のいるところに怨霊が隠されてるなんて、誰も思わないってことかい?」
「そういうこと。ヒノエくんもそう思わない?」
「考えられない事は無いね。やっぱり姫君は賢いね」

ニヤっと笑うヒノエくんの顔を見ていたら、一つの疑問が浮かび上がった。
それが、もしも当たってたら…さすがにちょっと不機嫌になりそうな予感が…。

「もしかして、試したの?」

私がちゃんと考えられる可能性を、全て考慮して調べを進めているかどうか。
どう考えても、それを試したとしか思えないんですけど…?
ヒノエくんの口ぶりからして。

「ヒノエくん、法住寺も怪しいって分かってたでしょ?」
「ふふっ。に隠し事は無理かな」

楽しそうに言うヒノエくんの言葉は、明らかに肯定の意味を示していて。
今度こそ、本当に不機嫌になった。

「…弁慶さんのところに行ってくる」

そんなに信用できないのかって、多少不満に思うのも仕方がない。
別にヒノエくんが、私が頼りないからって試したわけじゃない事ぐらい分かってるけど。
ただ、もしかして見落としていたら、助言してくれるつもりだったんだろうけどね。

、一人で弁慶のところに行くのかい?」
「もちろん。何か問題でもあるの?」

私の様子に、ヒノエくんは少し苦笑いを浮かべた。
私が不機嫌なのが、ありありと分かったからだろう。
だけれど、それを態度に出したのはワザとで。
本当に不機嫌になってる訳じゃないから。

「無いなら、報告に行ってくるね」

と、くすくすと笑いながら片手を軽く上げる。
ヒノエくんは微笑みながら『参ったな』と呟いて。

「あ、そうだ。ヒノエくん」
「どうした?」

私がふと、何かを思い出したように振り向いたら、ヒノエくんは不思議そうな顔をした。
そんな彼に私はもう一度微笑んで。

「帰り、待っててくれてありがとう」

『ここでずっと、待っててくれたんでしょ?』
と言えば、驚いていた。

見えたんだ。
ここの場所に残ってた記憶。

『ヒノエ、あまり外にいると冷えますよ?さんなら、もうすぐ帰ってくるでしょうし』
『アンタがオレの心配するなんて、珍しいな』
『それは、可愛い甥ですからね』
『心にも無い事言うなよ…』
『ふふっ、心外ですね』
『ま、何でもいいさ』

相変わらずの二人の会話。
でも…秋風が吹いて冷えるのに…ずっと待っててくれたんでしょ?
だから、ありがとね。

本当に、不思議そうな顔をしているけど。
でも…分かった理由は、もう少し内緒にしておこうかな?
暫く、この力でからかうネタが見つかるかもしれないし。
少しぐらいは、そういうのもいいのかもしれない―――…。










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あとがき
はい、クイズです!(突然何を…)
一体何が書きたかったんでしょうか?
答えは…私自身分かってません(苦笑)
というか、ここまで単独行動に走るヒロインって…夢のヒロインとしていいのか?って感じですね。
しかも、比叡の結界&弁慶と望美の会話は思いっきり捏造です…っ。
それに長岡天満宮・清水寺・神泉苑・法住寺・比叡山に結界があるかどうかも、怪しい。
無いってことはないんでしょうけど…ねぇ?
あるってことで、話を進めさせてください〜(汗)