music by 光闇世界
少しずつ…
少しずつだけれど、私の中で…
色々な謎が解けていく―――…。
知らざる記憶
『それで、お嬢さんは何用か?』と知盛が私に視線を向けて。
それに少々驚いたのは事実。
まさか気づかれているなんて思わなかったから。
「気づいていたわけ、か。別にあなたに用じゃないのよ」
やれやれ、とため息をつきながら知盛の前へ姿を現す。
周りで兵が刀を抜く音が聞こえた。
「嘘だな。お前の表情…本当は俺に刀を向けたくて仕方ないのだろう?」
見抜かれた…。
本当なら今すぐ刀を向けて、脅してでも話を聞きだしたいと思っている。
でも、穏便に済ませてやろうっていう心遣いが、分からないの?この男は。
「前にも会ったか…。まさか生きているとはな」
「勝手に人を殺さないでくれる?」
確かにアンタにつけられた傷のせいで、死にかけたわよ。
でも、そんなところでくたばる私じゃございませんよ?
「そうね、ハッキリ言うわ。確かにあなたに用がある。話を聞きに来たの」
「話?俺に、か…?」
今『あなたに用がある』って言いましたけど?
耳遠いんじゃないの?(怒)
って、そんな事が言いたいんじゃなくて。
「他に誰がいるのよ?」
違うでしょ!?自分!
突っ込んでる場合じゃなくて、他に聞きたいことがあるでしょうが。
時間もないしさっさと聞く方がいいわね。
周りの皆さんも、飛び掛るタイミングを計ってるみたいだし。
「刀を抜けよ…お嬢さん」
「話に刀は不要よ」
自身の二刀を構える知盛に、私は平然と返す。
その返答に知盛は一瞬目を細めて。
そしてクッと笑いを漏らした。
「話か…。俺に勝てたら相手をしてやる、ぜ…?」
カチャリと鍔鳴りが小さく響く。
『俺に勝てたら』それは、話を聞きたければ、俺に勝て。と言ってるわけで。
大人しく話をする気がないことを示している。
「私は話を聞くまで刀を抜く気はないわ」
私の言葉に、知盛が地を蹴った。
多少の距離があったにも関わらず、その距離は一瞬で詰められて。
辺りが一瞬緊張に包まれた。
「本気で刀を抜く気がないようだな…」
私の喉にピタリと剣先を突きつけて、知盛が眉を潜めた。
その声は少し落胆の色を見せていて、つまらんとでも言いた気だ。
「話を聞かせてくれたら、いくらでも相手をするわ」
「つまらん女だ…。刀を交えるよりも、話の方がいい、か」
本当にやる気をなくして、知盛が背を向けた。
戦う気が失せたというより、これは相手をする気が失せたといった感じ。
このままだと、多分…話の相手もする気がないわね…。
「誰がそんなこと言ったの?言っとくけど、時間がないから話を先にするだけよ」
「時間がない?」
「生田にも源氏の軍が向かってる。戦闘が始まれば、いくらでも刀を交える事は出来るけど、話は出来なくなるでしょう?」
『出来る事なら、今すぐにでも刀を抜いて、生田を落としたいくらいよ』とため息をついて。
その台詞に、周りにいた兵士がどよめいた。
「ちなみに、周りの人に言っとくけど。刀を向ける気がないのは、知盛に対してだけだから。もし邪魔をするようなら、あなた達には容赦しないよ?」
「小娘が…!」
憤慨した兵士の一人が、横から飛び掛ってきた。
刀を振り上げ、私の頭部へとまっすぐ振り下ろす。
私はそれに視線を向けることなく、立ち位置を少しずらしてかわした。
「なっ…」
驚きの視線を私に向ける兵士に、にっこりと笑みを返して。
「だから邪魔しないでくれるかな?」
「畜生っ…」
「なんだ、まだやる気?」
兵士は地に切先を埋めた刀を抜き、その刀を横へと薙ぎ払った。
仕方がない、と私が刀に手をかけたときだった…
「やめておけ」
静かに響いた声に、私も兵士も動きを止めた。
声の方へ視線を向ければ、知盛がゆっくりと私達の方へ近づいてきていて。
「し…しかし、知盛様…」
「お前達では、この女の相手にはならないことぐらい分かるだろう…?こいつの相手は俺だ…」
知盛の言葉には少しだけ殺気が篭っていて、どうやら知盛も邪魔するなと言いたいらしい。
その台詞に、兵は恭しく一礼すると私達から離れる。
「そうだろう?…?」
「まさか名前を覚えていたなんてね…。何度も言うようだけど、話さえ聞ければ後は相手でも何でもしてあげるわ」
私はそのために来たんだもの。
話を聞かないうちは帰るわけにもいかない。
「お前の母親の話、か?」
知盛の言葉に一瞬ピクッと反応する。
私の様子に知盛が満足そうに笑みを浮かべた。
「どうやら図星のようだな…。いいだろう。お前がそれで俺の相手をする気になるのなら、話してやるさ」
知盛は私の目の前へと歩み寄ってきて。
…なんか威圧されてる気分になるのは私だけでしょうかね?
見下ろすの止めてくれません?と内心少しムカついていたり。
「私の母を追ってたって話、本当なの?」
「そうだが、それが何か?」
ったく、本当に答える気があるのかないのか。
少し馬鹿にされてる気になったけれど、自分も結構人を馬鹿にした態度をとるから…人のことは言えないと内心頭を振る。っていうか、ホントに最近性格が悪くなってる気が…(汗)
特にさっきの兵士は、完璧に馬鹿にされたと思ってると思う。
「どうして、あなたは母を取り逃がしたの?あなたほどの人が、女一人捕まえられないはず無いでしょう?」
あなたに追いかけられて、簡単に逃げられるはずがない。
知盛を目の前にして、生き延びれる人なんて…そうそういない。
母は武術なんて身に付けてすらなかったのだから…。
「だが、実際逃げられているだろう?お前がここにいるのだからな…」
「だからどうしてかって聞いてるのよ」
無駄な答えが多い!
と怒ってやりたかったが抑える。
だって知盛の場合、怒ったが最後、二度と答えてくれなくなりそうなんだもの。
「あの女は自分の力で俺から逃げたわけじゃないさ…」
「なら、誰が逃がしたの…?まさか知盛が逃がしたわけじゃないでしょうに」
母の力で知盛から逃れたのじゃなければ、誰かが助けたことになる。
でもだからって、知盛が逃がすはずが無いし。
でも、知盛に敵う人なんて…。
「クッ…当たり前だ。あの女を追い詰めたとき、俺を足止めしたのは…男だった、な…」
「男…?」
『それなりに楽しめた…。特別強かったわけではないがな』
と知盛は何かを思い出すように、満足そうな笑みを浮かべた。
「あの様子だと…お前の父親だったのかもしれないが、な…」
父親…?私の…父が…母を逃がした?
『それで…どうなったの?』
そう聞きたいのに、言葉が出てこない…。
話の様子、状況からして…きっと…。
ガッと私は知盛の腕を掴んだ。
話を聞かせてもらっておいて我侭だとは思うけど…このまま、いつはぐらかされるか分からない質疑応答は…もう十分。
それに時間がない…きっともうすぐ景時さん達の部隊が着いてしまう。
「何をする気だ…?」
「黙って…っ」
いつもみたいに、時間をかけて記憶を探ってる暇は無い。
『逃げろ楓!を連れて!ここは俺が食い止める』
『俺が逃がすとでも…?』
この男の人が…私のお父さん…?
父は母を背に庇うようにして、刀を構えていた。
父の後ろに立つ母は焦り怯えていて…その腕にはまだ小さい子供が抱きかかえられていた。
『早く行け!こいつは宝珠を…を狙っているんだ!』
母が父の言葉に、腕の中にいる子供に視線を落とした。
それが…その子供が私…?
でも、私にこんな記憶はない…。幼すぎて覚えていないんだ…。
ガキィィィィ
金属音が響き、父は知盛の刀を防いでいた。
ギリギリと金属の擦れる音が聞こえる。
でも…何かが可笑しい…。
父が知盛の刀を弾き、二人の間に距離が生まれた。
『お前らなんかに渡してたまるか…っ』
父が知盛へと斬りかかった…。
その瞬間にハッとした。
さっき感じた違和感はこれだったんだ…。
「駄目!お父さん!知盛は二刀流―――…」
叫んでももう遅い…これは知盛の記憶でしかない。声が届くはずが無い…。
知盛はスッともう一本刀を鞘から引き抜いて…。
舞い散った鮮血…。
父が倒れる様子は、ゆっくりとまるで映画のコマを送っているかのようだった…。
『いやぁぁぁぁ!』
母の叫び声が木霊する。
その母に知盛はゆっくりと刀を突きつけた。
『大人しく宝珠を渡してもらおうか…?』
『この子は…絶対に渡さない…。宝珠なんてどうでもいい…。それでも―――…』
泣きながら母が私を抱く腕に、力を込めた瞬間だった。
パァァ…と、目を開けていられないくらいに強い光が辺りに立ち込めた。
『何だ…?』知盛のその声に、母の言葉も遮られて。
光が収まった時、母も私の姿もなくなっていた…。
「知盛…母はなんて言ったの…?」
静かに問い、知盛を見上げる。
知盛の表情はどこか私を観察しているかのようだった。
「何のことだ?」
「この子は絶対に渡さない。宝珠なんてどうでもいい。それでも―…の後、母は何て言ったの?」
私の質問に、知盛が肩眉を一瞬上げた。
もしかしたら知盛のことだから、覚えていないかもしれないと思ったけれど。
どうやらこの様子だと覚えているみたいね…。
「俺の記憶を読んだのか…?」
「それが私の力だから」
「なるほど、な…。父上の言っていた通りか…」
一瞬『清盛が?』と思ったけれど。
清盛は以前も私に応龍の宝珠と神子の話をした。
詳しくても不思議じゃない。
「そんなことはいいのよ。何て言ったの?」
知盛は私をジッと見返していて。
その視線には好奇の色が含まれていた。
『興味深い女だ…』その一言を呟いて、再びクッと笑った。
「宝珠を失えば、この子は死んでしまう」
「え…?」
宝珠を失えば…私から宝珠を取り出せば…
私は死んでしまう…?
逃げて…。応龍の宝珠を渡したら…世界が滅んでしまう…。
だから、逃げて…。あなたも死んでしまう…。私は動けない…あなたを助けられない…。
以前聞こえた黒龍の言葉が、頭に甦る。
だから…私に宝珠をとられては駄目だと言ったの?お母さん…。
「もう、十分だろう…?」
咄嗟に、私は身を後ろへ一転させる。
私が立っていた場所に知盛の刀が突き刺さっていた。
「いい反応だな…」
そうだね…もう十分…。
あなたから聞きだせることは全部聞けた。
今は考えてる時じゃない…。考えるのは後からでも遅くない。
知盛…あなたは私の申し出を聞き入れてくれた。
だから…
「お相手するわ…」
私も約束を守る―――…。
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あとがき
とりあえず『宝珠を取られちゃいけない訳』は解決です!
一応…ですが(汗)
たったこれだけかよ!?何て言わないで下さい〜。
あと残ってる問題もいくつかありますが…それは大した理由ではないんで(ないのかよ!)
どこかでサラッと謎解きしたいと思います。っていうか多分まとめて?