彼等はきっと、時空を超えてくる
責任感が強くて
誰よりも何よりも、優しい彼等だから…

そして、彼等が時空を超えた時が…
私の運命が決まる瞬間―――






見据えた運命






光が収まった時、そこには望美の姿しかなかった。
荼吉尼天の姿も、の姿もどちらも無くて。
一体何が起きたのかと、オレたちは只そこに佇むことしか出来なかった。

「望美!おい、しっかりしろ!」
「先輩!大丈夫ですか!?」

将臣や譲が、望美を抱き起こして必死に呼びかける。
その呼びかけに、望美が小さく反応した。

「…まさ…おみくん…、ゆず…る…くん…?」

本当に小さくだけれど、それでもハッキリと望美は名前を呼んだ。
その様子に、その場に居た誰もが安心したように胸を撫で下ろす。
でも、望美の顔色は反対に焦ったものへと変わった。

「…っ!!!?は!?」

急いで飛び上がるように体を起こして、一番近くにいた将臣へと詰め寄る。

は?
それはオレたちの方が聞きたいくらいだ。
望美が何か知っているだろう思っていたけど…
それは、オレたちの間違いだったのか…?

「望美、落ち着けって!」
「そうですよ、望美さん。何があったのか詳しく話してくれませんか?」
「は…はい…」










「望美の言う通りなら、は俺達の世界に行ったってことか?」
「荼吉尼天を通して俺達の世界が見えた。それは間違いないんですよね?先輩」
「うん、間違いないよ!」

荼吉尼天は『旅立つ』そう言って消えたと、望美は言った。
そして、荼吉尼天を通して望美が見たという元の世界。

それが本当なら、荼吉尼天は望美たちの居た世界へと向かったんだろうね…。
やっぱりは…

「となると…は荼吉尼天を追っていったってことで間違いってことかな」

オレの言葉に、あちこちでため息が聞こえた。
それは、あからさまなものから小さなものまで様々だったけれど。

「ホント、困った姫君だね」

捕まえておく事なんてできない。
いつも、オレの方が追いかけて…
だけれど、それが嫌なわけじゃなくて。

思わず、苦笑が洩れた。

「だけど、信頼されてるのも悪くない」

オレが笑みを浮かべると、それに誰もが頷いた。
助けて欲しい、そんなこと言う必要がないと…
言わなくても伝わっている、そう信じているから…だから先に一人で時空を超えたんだろうから。
そして、再びいくつかのため息が上がった。

「ホント、世話のかかる奴だな。アイツも」
「全くだ。あの馬鹿さ加減には呆れて物も言えん」

中でも盛大にため息をついた、将臣と九郎。
…二人とも、人のこと言えないと思うけど?

恐らく、そう思ったのはオレだけじゃないと思う。
弁慶は、明らかに九郎にそんな感じの視線を送ってたし。
望美と譲は顔を見合わせたあと、呆れたようにため息をついてたしね。

「私は行くよ」

望美は自分の持つ白龍の逆鱗を握り締めた。
その瞳には、強い決意が映し出されていて。

それでこそ、オレ達の神子様だ。

「だけど、皆は…」
「おっと、それ以上は言うなよ。姫君」
「そうですよ、望美さん。僕達も心は決まっています」

眉を寄せて、言いにくそうな望美の言葉を遮ると、オレは微笑んだ。
弁慶の言葉に、全員が頷く。

「大体、このまま放っておけないだろう」

不貞腐れたような九郎の様子に、望美も微笑んで。
分かった、と強く頷いた。

「私の逆鱗と先生の逆鱗の力。それに白龍の力を使えば、きっともう一度全員で時空を超えられる」
「うん。大丈夫だよ、神子」
「だけど…向こうで荼吉尼天を倒したとしても…戻って来れないかもしれない」

分かってるさ、望美。
以前と今回とで、あわせて二回…全員で時空を超える事になる。
そうすれば、もしかしたら…帰ってくるための力は、逆鱗にも白龍にもなくなってしまうかもしれない。

オレには熊野が。
他の連中にも、それぞれ帰りを待っている人や守りたいものが京にある。
だから、戻ってこないなんてことは、あってはならない。

だけど…

「それでも、オレたちも行く」

『かもしれない』そんな不確定なものよりも。
と共に戦いたい、守りたい。
その気持ちは何よりも確かなものだから―――





+++++++++++++++++++++++++++





「こんな所まで逃げてくれちゃって。一体何がしたいのかしらね?」

荼吉尼天に向けられた私の言葉からは、不機嫌な事がアリアリと感じられた。

だって、時空を超えてみたらこっちの世界は雨で。
そんな中、結構な距離を走らされて(5キロはかたいね!)
道行く人には、ちょっとどころか…かなり不審な目で見られて?
全く、最悪だったらありゃしない!

「本当にしつこい子ね」
「あら、そう育てたのは貴女でしょう?」

どこの誰がそうやって教育したんでしょうかねー?
と嫌味を込めて、にっこりと微笑んでやる。

「本当に昔から変わらないわね。貴女…」
「そう?」
「ええ、何でも一人でこなせてしまう。人を信じていないところは変わらない」

荼吉尼天はそう笑みを浮かべたけれど。
その言葉に、私は思わずキョトンとしてしまって。
次の瞬間には、クスクスと笑っていた。

「やっぱり貴女は何も分かってない」
「なんですって?」
「だってそうでしょう?」

確かに、昔の私は人なんて信じてなくて。
何でも一人でこなして、一人で生きてるつもりだった。
だけど今は…

「私は信じてるよ?皆を…仲間をね」

私の挑発的な笑みに、一瞬荼吉尼天は驚いたようだったけれど。
でも直ぐに、荼吉尼天もまた同じような笑みを返してきた。

「仲間?神に恐れをなして、貴女一人に押し付けた者達が、はたして仲間と呼べるのかしら?」

押し付けた?
誰が?

「だから貴女は何も分かってないって言うのよ」

フッと笑った私に、今度こそ荼吉尼天は嫌悪感を露にした。
さっきまで浮かんでいた笑みは消え、見る見るうちに禍々しい気が辺りを包みだす。
それでも、それに怯むことなく私は続けた。

「誰が貴女を恐れたというの?悪いけど、私の仲間を安く見ないでほしいわね」

彼等は、貴女を恐れたりなんてしない。
逃げ出したりなんてこと、絶対にない。

だって彼等は…

誰よりも責任感が強くて。
他の何よりも優しいから。

だから…だから彼等は…

「皆は、時空を超えてくるよ。貴女を追ってね」

もしも、自分達が戻れない…そんな事態になるかもしれなくても。
それでも。
貴女を倒すために、必ず彼等は時空を超えてくる。

それが、私が信じた仲間。
私が好きになった皆だから。

分かってた。
必ず来ると、信じて…分かっているから。
私の覚悟も…もう決まっているの…。






と荼吉尼天は?』

雨が更に激しく降り注ぐ。
まるで、この場だけ外界と遮断されたかのような。
そんな錯覚にさえ陥るけれど。

そのせいで気付かないの?
本当に分からないの?

『行くぜ、姫君が待ってる』
『うん!急ごう!』

貴女を追ってきた足音に。

『本当にはこっちにいるんだな!?』
『今は望美ちゃんを信じるしかないよ。九郎』

貴女との決着をつけに…。
私と同じように、けじめをつけに来た彼等に。
そして、視界に揺れる決意を秘めた紫苑の髪に―――…。






「もう逃がさない!荼吉尼天!!」















BACK / TOP / NEXT
--------------------------------------------------------
あとがき
久々の更新に関わらず、短い事短い事(汗)
続きもあったんですが、長くなりすぎるので一旦切りました。
さん、また何か考えてるみたいですが…
それは追々。
もう分かってる方もいるかもしれませんが(笑)