立ち止まるのは止めた…
何が待っていようとも、一人進んで行こうと思った。
誰も巻き込まないように…一人違う道をいくつもりだった。
でも…
それを彼らは…許してはくれなかった―――





歩む道





あの後皆のところへ戻った私は、ただひたすらに謝った。
心配をかけて、勝手な事をしてごめんなさいと。

「お前が大丈夫なのも確認できたし、俺はそろそろ行くぜ」
「兄さん、何かあるのか?」
「俺にも色々やることがあってな。それに、どうやら迎えまできてるみてぇだからよ、待たせるのも悪いだろ」

その言葉に、きっと迎えは平家の人なんだろうと思いつつ。
内心少しホッとしていた。
ヒノエくんが何か話をするつもりなら、きっと私の話もしなければいけないだろう。
母のこと、それに関係する知盛のこと…皆を源氏だと知らない将臣くんに、そのことを隠しながら話を進めるのは少し辛いから。

「こいつは俺が何とかしとくぜ」

そう言って、野党を連れ出して。
将臣くんは一人里から出て行った。

『俺らはいない方がいいだろ。頑張って、ちゃんと自分の考え伝えろよ』

すれ違い様に将臣くんは小さく呟いて。
将臣くんは何となく分かってるのかもしれない。
知盛の名前を聞いて…その話を、自分は聞かないほうがいいことなのかもしれないと。
それに、野党を連れ出してくれたのも…きっと私の事を考えてなんだろうな。
『俺ら』って言うあたりね。
その優しさが嬉しい反面、少し申し訳なかった。









「それで、さん。話していただけますね?一体何があったのか…」

弁慶さんに促されるまま、私はとりあえず座って。
実際私は、ヒノエくんの話を聞きに戻ってきたのだけれど…
それでもやっぱり戻ってきたからには、まず私の…さっきのことを説明しなければならなくて。

「…何もかも全てお話しします。私が知っている範囲でですが…」

私はゆっくりと話し始めた。
自分でもまだハッキリと分かっていないことも、できるだけ皆に分かってもらえるように。

「あの野党が、私の母の事を知っていたのは聞きましたよね?」
「ええ…」
「皆もきっと気づいてるとは思いますが…私の母はこの世界の人間でした」

その言葉にやっぱり、といった顔をしながらも
全員が全員驚きを隠せないでいて。

「母は清盛から応龍の宝珠を守るために、向こうの世界に逃げたんです」

応龍の宝珠を守っていたのが、一族だったこと。
応龍の宝珠を宿した者を、応龍の神子と呼ぶこと。
宝珠には強大な力が宿っていて、その力は使い方によってはとても危険なものだということ。
とにかく精一杯順を追って話していく。

「宝珠を守るために向こうの世界に行ったのに…なんでがここに?」
「確かに先輩の言う通りですね。白龍、お前が呼んだのか?」

先輩や俺たちのときと同じように、と問いかける譲くんに、白龍は首を振って。

がここに来たのは私が呼んだからじゃないよ」

その言葉に、皆の視線が私に向いた。
なら、どうやってこの世界に来たのか?と言いた気で。
一瞬どうしようか迷った。
話すべきかどうか。

『ここではない時空で、皆に会ってついて来たから…私はこの世界にいるんです』

なんて、言っても信じてもらえるかどうか、怪しい。
それに、今話すことでもなければ、話す必要もないと思うし。
混乱を招くような話は、極力しない方がいいとも思う。

「私にもよく分からないんです」

曖昧な笑みを浮かべて、私は話さなかった。
もしもいつか話さなければいけない時が来ても…
まだ、早い…。今言っても混乱させてしまう。
望美と白龍は『ここではない時空』と言っても理解してくれるだろう。
でも、他の皆はきっと困るだけだ。

「気がついたら、森の中にいて。政子様に拾われていたんですよ」

間違ったことは言ってない。
ただ少し抜けた部分があるだけで。
私の言葉に、ヒノエくんが少し複雑そうな表情を浮かべたけれど。
『母親に捨てられました』なんて言える筈もなければ、言うつもりもない。

「平知盛が、さんの母親を追っていたという話は?」
「あの野党の言う通りなら、本当だと思います。清盛が宝珠を狙っていたのは事実ですから」

私だって確証があるわけじゃない。
野党の言う事が真実かは分からないけれど。
清盛ならそう命じかねないと思うから…だから知盛が何か知っているような気がするだけで。

「だから、私は知盛を追おうと思います。それで、少しだけ…お話があるのですが…」

私は一番言いたい事を…話すべきことを切り出した…。










「馬鹿かお前は」

人が真剣に話したと言うのに、かなり呆れ顔で九郎さんに言われた。
それに少なからず、驚いて、腹が立った。
馬鹿だなんて、かなり失礼だとは思うけれど、単純馬鹿の九郎さんには一番言われたくなくて。

「何が馬鹿だって言うんです?」

とコメカミに青筋を立ててしまった。
こっちは真剣で、悩みに悩んだ末に出した答えを言ったのに。
馬鹿だなんて言われたあかつきには、喧嘩腰になるのも仕方がないと、自分に言い聞かせる。

「俺たちと離れて一人で行こうと言った事に、馬鹿だと言ったんだ」

真剣な表情の九郎さんはどこか怒っていて。
怒られるようなことは言ってないと、不満に思った。

『話したいことがある』

と切り出した私は、皆を危険には晒したくないから、一緒に戦場へは行かないつもりだということ。
これは私の問題だから、皆を巻き込むつもりはなくて、だから一人離れようと思うことを伝えた。
そうしたら、黙って聞いていた九郎さんに、開口一番で馬鹿と言われたのだ。

「だって…九郎さんたちには無関係でしょう?」
「無関係なんかじゃないと思うけど?」

ヒノエくんがため息をついて、少しだけ苦笑いを浮かべた。
彼の言葉に、皆も頷いていて。
私一人だけ、頷く理由が分からないでいた。

「その話って龍神に関係してる事だしね〜。俺たちに関係ないって事はないと思うよ」

確かにそうですけど…と言葉に詰まる。
母の情報を探るということは、宝珠についても関わっていて。
それはつまり龍神に関わってはいるということなんだけど…。

「お前は深く考えすぎなんだ」

九郎さんの言葉に呆然としてしまった。
いや、だってですね?
私が深く考えすぎなんじゃなくて…九郎さんが単純すぎなのではなかろうかと。

「関係ある無いなどどうでもいいんだ。仲間だから助け、助けられる。俺たちは仲間だろう?一人で背負って行動する必要がどこにある」
「そうだよ、!私達だって、の助けになりたいんだから」
「仲間の歩む道は同じってことだね〜」
「九郎もたまには良いこと言いますね」

九郎さんの意見に、望美と景時さん、弁慶さんが同意して。
ヒノエくんの顔を見たら、『だから言っただろう?』と言わんばかりに笑顔を返されて。
一人で背負わなくてもいいと。
仲間だから助け合えばいいじゃないか、と言ってくれたのは嬉しいんだけど…。
でも、皆忘れてません?

「私がこのまま皆と一緒にいたら、危険なんだよ?」

ってこと。
いくら私が源氏じゃないと言い張っても、皆と一緒に戦場に行ったら…
その時点で源氏と見なされてしまう。

「いくら見つかる危険が低いとはいっても、可能性は零じゃないし…」
「姫君はどうしても、そこが気になるみたいだね」

仕方ないね、とヒノエくんが笑った。
他の皆も、大丈夫だと思うけど…とノンキなことを言っていて。
どこがどう大丈夫だというのか、とため息をつきたくなった。

「確かに可能性は零じゃないね。オレたちと一緒に戦に来れば、見つかったときに言い訳がきかなくなる」
「なら…」

ヒノエくんには何か策があったみたいだけれど…
私がどんなに考えてみても、皆と一緒に戦場に行く方法などなくて。
一人で別行動して、調べまわるしかないと思っていた矢先、ヒノエくんがとんでもないことを言い出した。

、オレの烏にならないか?」






「は?」

暫くの沈黙のあと、思いっきり呆けた返事を返してしまった。
烏って…と何度考えても同じものしか思いつかなくて。
一体何を考えてるんだと、凝視してしまう。

「烏になれば、戦場にも出入り出来るしね。それに烏は熊野の人間だ。源氏の人間じゃない」

ヒノエくんは余裕そうな笑みを浮かべて。
『オレは熊野の頭領として源氏にいるわけじゃないし、その辺りは問題ないだろ』
悪戯でも思いついたかのように、楽しそうに話すけれど。
でもそれは、どう考えてもマズイ気がしてならない。

「なるほど、その手がありましたか」

と弁慶さんも何故だか楽しそうで。
どうやら賛成の様子。
あなたまで、何を言い出すんですか!?
同じ熊野の人間として、ヒノエくんの叔父さんとして、止めるべきでしょう!?

「それじゃ駄目だよ!確かにそれなら、九郎さん達が咎められることはないかもしれないけど…。今度はヒノエくん達が…熊野が咎められちゃうじゃない」

確かに私が烏になれば、見つかってしまった時に九郎さんたちは知らぬ存ぜぬで、関係ないと言える。
でも、今度は熊野が危なくなってしまう。
源氏の裏切り者を匿ったと…。

「確かにそうだね。でも、いくらだって切り抜ける方法なんかあるさ」

余裕の笑みを崩さずに、ヒノエくんは言い放った。

「私の事が、兵から二人に洩れないとは限らないし」

と私が言えば

も知ってるだろ。烏は兵の前に姿を現す必要なんてない。烏がいるって話が伝わっても、それがだとは分からないさ」

と返され。

「でも、万が一バレでもしたら言い逃れ出来なくなるよ」

と言えば

「いざとなれば少し極端だけど、自分は熊野にずっといる別人だって言うことだってできるだろ」

と返される。
『熊野の人間に口裏合わせるように、根回しもできるしね』と。
その他にもつらつらと、並べていくヒノエくんに呆然として。

「さっきの話、別人を装うのはちょっと無理があるんじゃない?」

と突っ込んでみる。
どう見たって、顔は別人に思えないし。

「一瞬目撃されるならまだしも、顔を見られたらヒノエくんだけじゃなくて、九郎さんたちにも迷惑がかかるし。私が生きてるって知ってたのに、報告しなかったって」
「烏なら顔隠していても不思議じゃないだろ。は声は変えられるかい?」
「まぁ…一応変えれるけど」

それなりの訓練はしてあるし。
そんなにバリエーションがあるわけじゃないけど、ある程度の変化は可能だ。
でも、考える事がまるで悪戯に近い気がしないでもないのですが?
要はそんなに、難しく考えるなって感じなんだろうけれど。

『ま、普段から戦場に出入りするときは覆面して、声も変えれば誰にもバレる心配はないだろうね』

と本当に楽しそうで。
いや、真剣な事は真剣なんですけれどね。
軽く言ってるから、言い訳や言い逃れにしか聞こえないけれど…
それでも言ってることは間違ってなくて。

「源氏は水上戦が弱いですから、熊野を敵に回すことはしないと思いますし」

『熊野は水上の戦上手ですから』
と弁慶さんも微笑んで。
皆も、『良い案だな』とか『そんな手があったか』と言っていて。
どうやらこれは…

「私に選択の余地は無し、ですか」

とため息をついてしまった。
でも、そんな私に皆して

「その方がも嬉しいんじゃないのか?」

と言うもんだから、一瞬呆然として、その後笑いが込み上げてきた。
『まぁね』と微笑み返して。
結局、逃げ道が色々増えただけで、危険があることには変わりがないけれど。
でも、皆が…それでも一緒にいてくれると
一緒にいて、助け合えばいいと言ってくれたことが嬉しくて。
思わず涙が溢れそうになった。




『私が皆を守るから―――…』




私に仲間だと言ってくれた皆を…万が一のときには守ってみせるから…。
熊野別当を…ヒノエくんを守る烏として…
それだけじゃない、皆の烏として…皆を守るよ―――…。












BACK TOPNEXT
--------------------------------------------------------------
あとがき
えーっと、ただ単に『俺の烏にならないか?』を言わせたかっただけです(馬鹿)
しかも、『俺の』って部分が重要なんですよ!
一度でいいから言われてみたい台詞ですよ〜。マジで。
こんなお馬鹿ですみません…っ。
相変わらず意味の分かりにくい、突っ込みどころ満載の話で…申し訳ないです。
都合よくなってる上に、回りくどすぎだと思いつつ、そこはスルーでお願いします(土下座)