本当に、いつの間にか大切な物が増えていて。
それ全てを守りたいのに…
何かを守ると、何かを失わなくちゃいけない。
ごめんなさい…。
皆は、私を責めるかな?
嫌いになるのかな?
私は初めての仲間を…失うんだね―――











「よ。お前も本当に一緒にいたんだな」

熊野へついた途端、白龍が嬉しそうに走っていった先…
そこについ最近見た人物がいた。
赤の陣羽織に青い髪。

「どちら様でしょう?」

と思いっきり知らないフリを装ってみる。
しかもかなりワザとらしく。

「お前なあ…」

その人物…将臣くんは少し呆れ気味だ。
でもですね、何で初対面ってことにしないのかなぁ…?
あーあ、何か皆が不思議そうな顔してるじゃないのよ!
説明に面倒なことしてくれちゃって…

「二人は知り合いだったんですか?」

ほら、一番厄介な奴に目を付けられたじゃないのよ!
この際面倒だから、将臣くんの正体全部喋っちゃおうかしら(酷)

って、それはさすがに冗談だけれど…
さて、どう説明したものか。

「俺がこの世界に来たときに会ったんだよ。少しだけだけどな」

私が頭をフル回転させて悩んでいたら…将臣くんは横で、あっさりと答えを返した。
…。
いや、確かに間違ってはいませんけど。
どこで?とか突っ込まれて聞かれたら…口裏合わせても、ボロが出ると思うんだけど…。
ま、いいか。(いいのか?)

「兄さんがこの世界に来た時ってことは…」
「ん?ああ、大体三年前だな」

ええ、確かにその時はまだ彼も18歳で若かったよね。
え?いや、今でも若いけど。
それでも21歳の高校生って…ねぇ?

「二人は何処で会ったんです?」
「俺が世話になってる屋敷の近くで会ったんだよ」

はい、平家の屋敷ですね。
って、近くっていうより…もろ中のような気がするんですが?
さすが、その辺りはハッキリさせないのね。
ハッキリさせたらバレちゃうからねぇ…私が昔行ってた屋敷って平家の屋敷ばっかりだし。

でも、やっぱり将臣くんも頭良いんだと思う。
さっきから質問されること、さり気無くかわしてるからね…。
それも怪しまれない程度に。
さすがは還内府といったところか。










で、そんな風に無事?将臣くんと再会を果たして…
ただいま熊野川に向かっている最中でございます。
そういえば、途中で変な貴族の人にあったのよね。

「下々の者は道を迂回して本宮へ行くがよい!」

と、何とも偉そうに…完璧に人を見下した物言い。
本当はかなりムカッってきたけれど…騒いだって仕方が無いので黙っていてやった。

どうやら理由は、後白河法皇がいるからってことらしいんだけど…
いつまでも熊野川で何をしてるのかしらね?
目的地は本宮だろうに…。

「ねぇ、望美…。もしかして…」

本当に小さな声で、『怨霊がいるんじゃ…』と望美に耳打ちする。
さっきからこの貴族の態度…絶対理由は法皇がいるからじゃない。
何かにおびえているような…焦っているようなそんな感じ。

「うん、実はね…」

私の問いかけに望美が頷いた。
話によれば、どうやらこの先の川が氾濫しているらしい。
そしてその原因は…怨霊だってこと。
ということは…多分、言う通りに迂回しても無駄ってことよね。
きっと下流のほうも氾濫してるだろうし。
安全なところを残しておいたら、ここに罠を張ってることが意味を成さなくなるからね…。

「すみませんが通してもらいます」

こういうタイプにはハッキリ言ったほうがいい、と強気に言い放った。
絶対回りくどく言ってみたところで、このタイプは理解しようとしないからね。

「駄目じゃ駄目じゃ!もし、通らなければいけない理由があるのなら申してみよ!」

その貴族の言葉に、望美が口を開きかけた。
それを私は横からさり気無く制す。
望美の逆鱗のことは、私しか知らないことだし、今皆に説明するべきでは無いと思う。
逆鱗のことを聞いての反応は人それぞれだからね…私は気にしない派だったけれど、皆が皆そうとは限らない。

「川が氾濫して通れないことは知ってます」

だから、隠さずに通せと笑顔で威圧してみる。
が、どうやら威圧する必要はなかったみたい。
だって、私の言葉を聞いて…

「おお、そなた達が陰陽師の一行か!法皇様がお待ちだ!早く通るがよい」

と、いとも簡単に通してくれた。
陰陽師の一行?
って確かに陰陽師は一人いるけれど。
まぁ、何はともあれ通れたんだから、よしとしましょうか。
法皇様に会えば、九郎さんの顔も知ってるし問題はないだろう。

「これはこれは、珍しい組み合わせじゃな」

と、やっぱり法皇様も不思議そうだった。
というよりは、面白がっていたって言うほうが正しいかもしれないけど。

確かに変な組み合わせよね。
源氏の総大将に平家の還内府、それに熊野別当。
この源平合戦の実質的トップが顔をそろえているんだから。

法皇様に道を通してもらって、暫く普通に歩を進めて行った。
そして、少し足を休めようという話になって休憩になったとき、私は皆から少し離れて考え事をしていた。

ちゃん、ちょっといいかな?」

少しだけ声をかけにくそうにしていた景時さん。
ずっといつ話を切り出してくるのだろう?と思っていたけど。
案の定、私が一人の時にきましたか。
まぁ、聞かれていい話じゃないから当然なんだけれど。
だから、一人で休息をとってたっていうのも本音。

「いいですよ?何ですか?」

何の話をしたいのか、予想できていたけれど、それでも景時さんは言いにくそうだった。
困ったような笑みを浮かべている。

「俺が何を言いたいのか…分かってるよね?どうするつもりだい?」

真剣な面持ちになって尋ねる彼は、頼朝の懐刀と言われるほどの戦奉行そのもの。
景時さんはどんな返事を期待してるのだろう?

私に九郎さんと頼朝、どっちを裏切ってほしい?
景時さんにとってはどっちがいいのかな…?

でも、ごめんなさい。
私はすでに決めてあるから。
あなたの意に反していても覆すつもりはないんです。

「それを言ってしまったら、成功する作戦も失敗に終わってしまいますからね。今はまだ言えません」

ただ笑ってそう答えることしかできない。
でも、笑顔って便利だって思う。
だって、何を考えてるのか悟られずに済むから…。

「どうやら俺が何を言っても無駄みたいだね」

景時さんがため息をつきながらそう言った。
私があまりにも余裕そうに言ったから、少し癇に障ったのかしら。
でも、本当は余裕なんてこれっぽっちも無いのだけれど。

「でももし…ちゃん、きみが命令に背くようなら…俺は…」

景時さんが自身の銃に手をかけた。
監視の任、いざという時には手を下すのも、許可されているのですね…?

「分かってますよ。私は私の思うように…。景時さんは景時さんの思うようにしてください」

全てを言わすまいと、景時さんの話を遮る。
それに…大丈夫ですよ。

「景時さん、多分あなたが私を殺すことは無いと思います」

そう、だから大丈夫。
だからそんなに辛そうな顔をしないで下さい…。

その言葉を景時さんがどう取ったのかは分からない。
けれど、嘘ではない。
景時さんが私を殺す…そうなる選択を私はしていないから。

私は景時さんの後姿を見送りながら、自嘲気味に笑いを漏らした。
同時にため息をつく…と後ろを振り返る。

「それで?ヒノエくんは何の用かな?」

振り向いた先には彼の姿。
だけれど、その表情は少しも笑っていなくて。
もしかしたら、話を聞かれていたんじゃないかと不安になった。





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オレがの姿を見つけたのはついさっき。
最近…というよりは鎌倉から帰ってきてから、に元気が無かった。
本人は何も無いといった顔をしていたけれど、それでも鎌倉で何かあったのは一目瞭然だったからね。

「それで?ヒノエくんは何の用かな?」

は、振り向いてオレに笑顔を向けた。
その笑顔がやはり、どこか困ったような…不安そうな笑みに感じたのはオレの気のせいだったのだろうか?

「いや、別に特に用ってわけじゃないんだけどね」

オレの言葉にが少し首を傾げた。
用がないのに、何故いるのか?って顔をしているね。

「それとも、用が無いと相手をしてはくれないのかい?」
「そんなことは言ってないでしょ。それに用が無いっていうのも嘘でしょう?」

オレが少しからかうように言ったら、は少し照れたような仕草をした。
が、それでも頭の回転は止めないらしい。
いとも簡単に用が無いことを『嘘』だと見破られた。

「どうしてそう思うんだい?」
「だって、ずっと何か聞きたそうな顔してたもの」

確かにオレがに聞きたいことがあったのは事実だ。
それでも、そのことを悟られないようにしてきたというのに…やはり観察力は並ではないね。

「全く、には敵わないね。確かに聞きたいことはあるよ」

オレがそう言ったら、は『そっか…』とオレから目を背けて少し微笑んだ。
でも、やはりどこか悲しそうな笑みで。
オレが一番聞きたいのはその理由…。
どうしてそんなに悲しそうに笑うのか、それが一番聞きたい。

「鎌倉で何があったんだい?」

単刀直入に質問を投げかけた。
その質問に、が肩を少しだけだが震わせたのを…オレは見逃さなかった。





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「鎌倉で何があったんだい?」

その質問に思わず肩を震わせてしまった。
一番聞かれたくなかったこと。
必死で隠していたのに、どうして彼は気付いてしまうのだろう…?

「どうして?何もなかったけど…?あったとしたら、失敗したことを責められなかったことだけが、不思議だったことくらいかな」

自分でも動揺しているのが分かる。
もしかしたら、声すら震えているかもしれない。
でも、嘘はついていない。
責められなかったことが不思議だったのは本当。
でも、その理由を私は知っているけれど、それは言えないから…。

「なら、なんでそんなに悲しそうなんだい?鎌倉から帰ってきてからずっと…泣きそうな顔をしてる」

泣きそう?私が…ずっと…?

「そんなことないよ。別に悲しいことなんてないもの」

これ以上何も気付かれたくなくて、思わず跳ね除けるような言い方になる。
嘘ばっかり。
悲しいことが…辛いことが無いわけないのに…。
今すぐいなくなりたいくらい、悲しくて辛くてしょうがないくせに…。

「嘘だね。それとも…オレには言えないことなのか?」

私を見つめるヒノエくんの表情が、どこか悲しそうに見えた。
どうして?
どうしてヒノエくんがそんな顔をするの?

言えたらどんなに楽なんだろう。
でも、どうして言える?
『あなたと九郎さんを殺せと言われました』なんて、なんで言うことが出来る…?
言えるわけがない…。

「嘘じゃないよ。…それにもし嘘だったとしても…言えない。ヒノエくんだけじゃない、誰にも言うつもりは無いわ」
「仲間でも…かい?」

『仲間』か…。
私もそう思っていた。
ずっと仲間でいたかった。
だけれど私には…仲間だと言ってもらう資格がないの。
私が仲間でいることで、いつか皆に…ヒノエくんに辛い思いをさせるなら…

言わなくちゃいけない…。
言いたくなくても…それでも、そんなことより大切なことがあるから。
だから…

「私は…みんなの仲間じゃない…」

ごめんね…。
許してなんて言えないけれど。
それでも、謝るしかできないの。

始めから、命令に逆らっていればよかった?
九郎さんたちと行動を共にしていなければ、こんなことにはならなかった?

「どうして…」

ヒノエくんが言葉に詰まっている。
仲間じゃないなんて嘘だよ、冗談だよって言えたら楽だろうね。
何も無かったことに出来れば…って思うよ?
でも、これが私に出来る精一杯なの。
あなたを…皆を最後の最後まで苦しませたくないから…。

「始めから私は仲間なんかじゃなかった。ヒノエくんなら知ってるよね?私は…政子様の人形なの。だから勘違いしないで…」

そこで一度言葉を区切った。
故意にではない。
言葉が出てこなかった…。
言いたくない気持ちが強すぎて…声にならなかった…。

「勘違いしないで…。私はあなた達の…敵、だよ…」

私だけじゃない、頼朝も政子様も…もしかしたら景時さんも、敵なんだよ…?
ヒノエくんなら少しは気付いていたよね?
皆にとっての敵は、平家だけじゃないってこと…。





私のことを仲間だと言ってくれてありがとう…。

でも、もう分かったよね。
私は敵なの。

だから…
その敵から…

身を、守ってね―――…?










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あとがき
暗!!とにかく暗い!!!
ていうか、敵だなんて言っちゃって…
いいのか!?という感じですが…。
この作品が明るくなるってこと…あり得るのでしょうかねえ?