たくさんの花を愛でるのは楽しいし
綺麗なんだけど…
私がもしも花だったなら――…
愛でる花は
「視線が痛い…」
「ん?突然どうしたんだよ」
「視線、ですか?」
突然、ポツリと呟いた私に、隣にいたヒノエくんと弁慶さんは笑って。
今日は、珍しいこの三人で怨霊退治に回っていた。
で、何でこの三人かっていうと…
『えーっと、じゃあ今日行けるのは…私と、ヒノエくんと弁慶さん、それと先生と白龍でいいんだよね?』
いつも通り、京の怨霊を封印してまわるはずだったんだけど。
いつもと違ったのは、行ける人があまりにも少ないっていうことだった。
『俺は、雨乞いの儀の後始末がまだ残っているからな』
と九郎さん。
神泉苑での雨乞いの儀。
その後片付けは大体終わったんだけど、まだ色々とやらないといけないことがあるらしくて…。
今日はついて来れないとのこと。
『全く…こんな時期に風邪だなんて…』
『いや、だからね…?朔は行って来ていいんだよ?』
『そうはいきません』
で、景時さんが珍しくって言ったら失礼だとは思うけど、風邪をひいてしまって。
熱がかなり高くて、弁慶さんの薬を飲んでも中々下がってくれない。
だから、看病は妹の朔がやることになったのよね。
それから、譲くんは…
『俺は…実は今日、兵の人に弓を教える約束をしてるんです』
とのこと。
残りの八葉は、朱雀組の二人とリズ先生、白龍に将臣くんと、もう一人なんだけど…。
将臣くんは私が合流した時、すでにいなかったし。
もう一人は見つかっていないから…。
望美が言った通り、今日怨霊退治に行けるのは、私と望美以外にあと四人ってことになるわけ。
『じゃあ…二手に別れる?』
『そうだね、の言う通りがいいかも。それなら…』
望美と二人で考えた末、白龍はまだ子供だから先生と一緒がいいだろうってことになった。
つまり、ヒノエくん&弁慶さんペアと行くのか。
それとも、先生&白龍のペアと行くのかってことなんだけど…。
『剣の腕を考えると、望美と先生が一緒の方がいいだろうな』
なんて、話を聞いていた九郎さんが言い出すから!
それに望美も同意しちゃうから…っ。
私と朱雀組の二人で、怨霊退治に行く羽目になったのよね…。
別に、二人と一緒に行くのが嫌だっていうわけじゃないんだけどね。
なんていうか…この二人といると、色んな意味で大変そうな気がしてならなかったんだもの。
で、予想的中。
さっきから、視線が痛いのなんのって…。
「いや、何か…周りの女の子の視線が痛いな〜って思って」
視線を向けられてるのは、間違っても私じゃないんだけど。
それでも、痛いものは痛い。
『見てみて、あの二人。すごく素敵じゃない?』
『ええ。あんな素敵な方達…今まで見たことありませんわ』
遠くからも近くからも、二人を見て騒ぐ女の子達がいっぱい。
『声かけてみましょうよ』
『でも、ちょっと待って?あの隣にいる女性は一体なんですの?』
いや、何だって聞かれても…困るってものでして。
その言い方って、完璧に私を敵視してません?
いや、二人に声をかけたければ…私にお構いなくどうぞ?
二人の場合、邪険にすることは無いと思いますし?
にしても…ヒノエくんと弁慶さんが目立つであろうことは分かっていたけど…。
何か、気分が怨霊退治どころじゃないんですが?
「そう?オレは周りの野郎共からの視線が痛いけどね」
ふふっ、と笑ったヒノエくんに、私はハテナを浮かべてしまう。
ヒノエくんは、女の子の視線には慣れっこといった感じだ。
「やっぱり、綺麗な花は人目を惹くものだね」
「花って、誰のこと?」
「そりゃもちろん、のことに決まってるだろ?」
「わ、私?」
私が花だと言いますか。
いや、まぁ…確かに女の子って花に例えられる事も多いけど…。
でも、花にも色々ありまして。
雑草だって花を咲かせる事をお忘れじゃございません?
「おや、ヒノエはさんのことをちゃんと分かっていないようですね」
「アンタよりは分かってると思うけど?」
「そうですか?僕には、さんが花のようだとは思いませんけど」
「それこそ、アンタの方が、のことを分かってない証拠じゃないのかい?」
来た。
この二人と一緒にいると、大変そうな事第二弾。
いつもいつも、仲がいいのはいいんだけど…。
ちょーっと、巻き込まれる身にもなってほしいかな?と思ってみたり。
「いや、どっちかっていうと…ヒノエくんや弁慶さんの方が花じゃない?」
「オレ達が?男を花に例える奴なんて、そうそういないんじゃない?」
「そうですね。ヒノエは花のように愛でても、楽しくないですよ?」
「オレ限定かよ。アンタの方が愛でても楽しくないと思うけどね。アンタの場合、毒持ちだろ」
「毒も使いようによっては、薬にもなるんですよ?」
二人は、私の発言に苦笑して。
さらには、いつもの言い合いを続けてるんだけど。
でも、もうそこはスルーの方向で。
うん…まぁ、確かに男の人を花に例えるって、そうそうないとは思うけど。
「あ、花と言えば…」
「うん?どうした?」
「ヒノエくん、弁慶さん。お花見行きませんか?」
突然の提案に、ヒノエくんはきょとんとして。
弁慶さんは、『おやおや』と笑った。
怨霊退治はどうしたって話なんだけど。
でも、ねぇ?
三人で封印できる怨霊の数なんて限られてるし。
こうも暖かくていい日なのに…。
「春の京って久しぶりだし…。駄目?」
一応、この二人だって八葉だし…。
何言ってるんだって怒るかな?
と思ってたんだけど…。
「いいね。今なら下鴨神社辺りの桜がサイコーだと思うよ」
「今の時期なら、神泉苑より綺麗かもしれませんね」
と、賛成してくれて。
実は、この刺さる視線から逃げたかったっていうのも本音だった私。
というわけで、急かすようにヒノエくんと弁慶さんの手を引っ張って、下鴨神社へ向かった。
+++++++++++++++++++++++++++++++
『ヒノエくん、弁慶さん。お花見行きませんか?』
突然のの提案に、オレ達も賛成して。
怨霊退治を放りだして、下鴨神社に来ていた。
「うわー、やっぱり綺麗だね」
「姫君のお気に召したなら幸いだね」
「お気に召したもなにも…、下鴨の桜がこんなに綺麗だなんて、初めて知ったよ。ありがと」
「ふふ、にお礼を言ってもらえるなんて光栄だね」
「だって、下鴨の桜を見れたのは、案内してくれたヒノエくんのおかげでしょ?」
『私じゃ神泉苑くらいしか思いつかなかったし』
とは微笑んで。
どうやら、本当にここの桜がお気に召した様子だった。
「ヒノエも、たまには役にたつんですね」
「アンタな…姫君みたいに、素直にお礼が言えないわけ?」
「ああ、すみません。そうですね…、ありがとうございます」
「やっぱ、何か変な感じがするな…」
「お礼を言えといったのは、きみでしょう?」
「そうなんだけど…、アンタに素直に礼言われると…」
「本当に、きみは失礼な子ですね」
礼を言え、って言ったのはオレだけど。
だからと言って、本当に素直に礼を言われたら言われたで…すごく違和感があった。
「うん、やっぱり…」
オレたちの数歩後ろを歩いていたが、突然そう呟いた。
何が『やっぱり』なのかと思って振り向けば、妙に納得したような彼女の表情。
「ヒノエくんって桜、似合うよね」
その言葉に思わず、少なからずや驚いた。
オレに桜が似合う?
それを言うなら、お前の方が似合うと思うけどね。
「ほら、ヒノエくんの緋色の髪と淡い桃色の桜って…ぴったりじゃない?」
「まぁ、花が似合う男っていうのも…悪くはないと思うけど…」
悪いとは思わないけど、できればオレは避けたい。
花の似合う男。
それは、俺の中でどうしても…平家のとある奴を思い出させるからね。
「よかったですね、ヒノエ。きみも彼と一緒だそうですよ」
「嬉しくないね」
弁慶の言った『彼』っていうのが、は誰のことか分かってはいなかったけれど。
それならその方がいい。
「それと、桜ってヒノエくんに似てるよね」
でも、そんなオレにお構い無しには続けて。
そして、やっぱりどこか納得したようだった。
「オレが桜に?どこがだい?」
「うーん…、人の目を惹きつけるところとか…かな」
凛としていて。
昼と夜とで違う表情を見せて、人を楽しませるところも似ていると。
そうは笑って。
「あ、でも…ヒノエくんは儚い感じはしないから、そこだけは別かな」
と締めくくった。
の目に、オレがそんな風に映っていた事も驚きだったし。
興味深いといえば、興味深かったけれどね。
そんな時だった、遠くから呼び声が聞こえた。
「弁慶殿!」
本当に遠くで、手を挙げているのは…格好からして神社の人間だろうか。
どうやら弁慶の知り合いのようだ。
「おや、どうやら僕をお呼びのようですね。少し失礼します」
「あ、はい」
「ふふ、そんな顔をしなくても直ぐに戻ってきますよ」
「何でもいいからさ、早く行けば?」
「言われなくても行きますよ。ヒノエ、さんに何かしたら…桜の下に埋まってもらいますからね?」
「弁慶さん、それって…どういう意味ですか?」
「ふふ、きみは聞いたことがありませんか?桜の下にはある物が埋まってるって」
弁慶は一言よけいに付け加えて、オレ達にさっさと背を向けると、呼んでいる人物の下へ歩いていった。
やっと姫君と二人っきりになれるのは、好都合だけどね。
折角こんなに綺麗な桜を前にしてるってのに、もう少しまともな事が言えないのか、アイツは…。
「それで、オレは儚いところは桜に似てないんだろ?」
とりあえず、どんな風にオレが見えているのか興味があって、再び話を切りだす。
自分が人から見るとどんな風なのか、それは結構面白い。
それが、興味のある姫君の目線なら尚更だ。
「ある物って…何なんだろう…?」
と紅葉は一人、頭を悩ませていたけれど。
オレの問いかけに、今度はそっちの方を少し悩んだようだった。
「でもやっぱり、大勢に愛でられる桜とヒノエくんは似てるよ」
「それは、さっきのこと?」
「何だ、やっぱり分かってたんじゃない。自分が注目の的だったって」
「気づいてはいたさ。でも、いつものことだからね」
「あぁ…そう?」
女の子の視線を浴びるのは慣れてると言えば、は何とも曖昧な表情をして。
呆れてるのか、何なのか。
「ねぇ、ヒノエくん」
「うん?」
「桜に似てるヒノエくんに、一つ質問なんだけど…」
からかうように言われた言葉。
まるで、オレなら桜の気持ちが分かるはず、と言わんばかりだ。
「ね、桜からしたら…大勢に愛でてもらった方が嬉しいかな?」
「そうだね…、やっぱり嬉しいんじゃないか?折角綺麗に咲いてるんだしさ」
大勢に愛でられて、嬉しくないはずはないだろうしね。
少なくともオレが桜の立場なら、嫌なものではない。
「そっかぁ…。確かにそうかもね」
「ならさ、もしもが桜の立場だったら…どう思う?」
少し不服そうというか、曖昧な表情をするに、今度は逆に問いかけた。
すると帰ってきたのは、意外な答え。
「私?嬉しいよ。大勢に見てもらえても。でも…どっちかっていうと、たった一人に愛でてもらえた方が嬉しいかも」
大勢よりも、たった一人。
そう彼女は微笑んだ。
+++++++++++++++++++++++++
「ほら、ヒノエくんさっき私を花だって言ったでしょ?」
桜にとって、大勢に見てもらえたほうが嬉しいのか?っていう話になって。
私はどっちかっていうと、大勢よりも一人がいいって言ったら、ヒノエくんが首をかしげた。
「もしも私が花なら、大勢に愛でてもらうより、たった一人に愛でてもらった方が何倍も嬉しいかなって思って」
大勢に愛でてもらって嬉しくないはずはないんだけど。
でも、それよりも大事にしてくれる、たった一人に愛でてもらいたい。
それは、女の子として譲れない我侭よね。
「へぇ、そういうもの?」
「うん。ヒノエくんは違うの?」
もしかして…
たった一人になんて絞らずに…なんてことは言わないよね?
と内心、ちょっと心配しつつ。
でも、さっきの
『女の子に注目されるのは、いつものこと』
発言に、それも有り得ないことじゃないと思ってたり。
「オレは愛でてくれるのは、何人でも構わないけどね」
思わず固まってしまった。
いや、予想してはいたけれど…。
モテる男の子は、言う事が違うわ…。
「でも」
呆然としている私に、ヒノエくんはいつもの余裕そうな笑みを浮かべて。
スッと私の頬に手を伸ばした。
「愛でる花は、一つがいいかな」
「え?」
今の意味って…。
愛でる花は一つがいいってことは…。
恋愛対象の相手は、一人がいいってことで。
「って…それは当たり前でしょ…っ」
愛でる花が一つじゃなかったら、二股になるってば!
というか、なんでそれを私に言うかな?
そういうことは、愛でる対象に言いなさいって。
「姫君は手厳しいね」
ふふ、っとヒノエくんは笑って。
手厳しいって、それが普通でしょうが。
「うん、まぁでも…確かにの言う通りかな」
「何が?」
「愛でられるのは、たった一人にでいいってことがだよ」
さっきと言ってることが違う。
と突っ込んでやろうと思ったけれど、それは途中で断念した。
だって…それどころじゃなくなったんだもの!
「ちょーっと、ヒノエくん?」
「ん?」
「『ん?』じゃない!何してるの!?」
グイッと引き寄せられる感じがして。
更には、視界が暗くなったかと思ったら…見事にすっぽりとヒノエくんの腕の中にいた。
しかも、左右の視界もヒノエくんの上着で遮られていて。
私に見えるのは、赤茶色の服の色だけ。
「お前を愛でるのはオレだけで十分、だろ?」
何とか首を少しだけ動かして、視線を上に向けると。
そこには、満足そうに微笑んだヒノエくんがいた。
そして、彼は周りに視線を向けたかと思うと、直ぐに私へと視線を戻した。
「他の男に、姫君で目の保養をされるのはちょっと頂けないんでね」
「それって…どういうこと?」
周りの状況が見えないから、問いかけたのに。
ヒノエくんは、苦笑いを浮かべて、しかもため息までついた。
「罪な花だね」
そう聞こえたかと思ったら、同時に額に柔らかい感覚。
って…な…何した?
「え、何…え??」
状況についていけない私に、ヒノエくんは本当に楽しそうに微笑んだ。
ついていけないっていうか…理解できないっていうか…。
とにかく…な、何したの!?
「お前を愛でるのはオレの役目ってこと。それでいいだろ?」
自信たっぷりに微笑まれて。
やっと全ての意味を理解した時、一気に体温が上がるのが分かった。
ヒノエくんだけの花って…それは…。
「いいわけないでしょ…っ」
顔が赤くなってるのを、バレないようにするために、何とか腕から逃げ出して。
捕まらないだけの距離を、ヒノエくんからとった。
「愛でてくれるのがヒノエくんかどうかっていう以前に、私は花ほど綺麗でも可愛くも、儚くもないので!残念でした」
精一杯の照れ隠し。
それが、彼にとって意味があったのかどうかは分からないけど。
それでも…照れてるなんてバレたくない。
「どうしました?」
「あ、弁慶さん!」
「アンタ…もう戻ってきたのかよ」
天の助けと言わんばかりの私に。
反対にこれでもかってくらい、嫌そうなヒノエくん。
「さんに何をしたんです?ヒノエ」
「別に?アンタには関係ないだろ」
「遠くから見てましたけど、少しは人目を気にしたらどうです?」
「オレは構わないからね。嫌なら見なきゃいいだろ?」
「きみは構わなくても、彼女は違うでしょう?本当に桜の下に埋まりますか?」
にこにこと笑いながらの攻防戦。
もう慣れたんだけど…、声をかけても気づかないのは止めて欲しい。
「あのー?」
だめだ。
完璧に聞いてない。
もしも男の人を花に例えていいのなら…。
言い合いをする、仲がいいのか悪いのか分からないこの二つの花。
愛でているのは楽しいし、飽きないんだけどね?
「悪いけど、はたった一人に愛でてもらいたいらしいからね。アンタの出番はないぜ?」
「おや、そのたった一人がきみだと、彼女が言ったわけではないでしょう?」
「言ったとしたら?」
「そんな会話は一言も聞こえてきませんでしたが?」
「盗み聞きとは悪趣味だよな。アンタ」
たった一人に愛でて欲しい、それは間違ってないし。
だからと言って、その一人をヒノエくんに断定した覚えもないけれど。
…やられたなぁ…。
たった一人に愛でて欲しいって言った私に、その一人は、オレだって言ってくれたヒノエくん。
正直、嬉しかった…けど、ね…。
でもそれは、もう少し秘密にしておこうかな――…。
----------------------------------------------------------------
あとがき
如月 葵様、15000Hitおめでとうございます!
そして、リクありがとうございました。
リクの内容は連載の『願い事』みたいに、ほのぼの甘系。
ヒノエとの絡みがあって、更に弁慶とも絡んでくれるといい、とのことでしたが。
いかがでしたでしょうか?
何か、とてつもなくハテナがいっぱい飛びそうな…意味不明な作品ですみません…っ。
一応桜の季節なので、安易にも花見にしてしまいました(笑)
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!
如月 葵様のみ、お持ち帰りOKとさせて頂きます。