「悪いけど、無理…なんだわ、ごめん」



「あ…っ、そ、そっか。私の方こそ、ごめんね?」



「んーん、気持ちは嬉しかった。ありがと」















さすがはモテ男め。







入学してまだ一ヶ月だってのにもう女の子毒牙にかけやがった。



























「悪女ー、立ち聞きなんて趣味悪ぅーい」



「………故意ではないんですよ」































譲れないモノ
























「もったいない。今の子可愛かったのに」



「ヤだよ。俺は性格重視だから」



「そう言いながら付き合ったことなんか一回もないでしょ?」















電車の音に負けないように少し大きな声で喋った。



高校に入学してから早一ヶ月。



これも腐れ縁というやつか。



隣のクラスになってしまった私と







この際はっきり言ってしまうけれども、はモテるかモテないかといったらモテる組だ。



っていってもそれは顔のおかげ。



告白されるのは面食いの子ばっかり。



本性を知ったらそれはもうみんな告白なんかしないだろうさ。



男友達も引いていくだろうさ。















「これで何人目?」



「んな大袈裟なもんじゃねぇ。三人だっつの」



「まだ一ヶ月だよ?早すぎるって…」



「そりゃ名前も知らないような奴が告るんだからな。俺の性格なんか気にしてないだろうよ」



「はははー、羨ましいですな」











うあー、今日も満員電車。



仕事帰りのオッサンたちご苦労ですがもうちょっと残業してから帰れっての。



疲れてんのにこのぎゅうぎゅう詰めがイヤなんだよ…。



















「で?お前は?」



「は?何が」



「告られたかってこと」







「……イヤミ?」



「イエース、俺の人生の楽しみ」



「楽しみにしないでよ」















容姿は十人並み、成績も中の上、運動はまるでダメなモテない組に分類される女。



親にこんなこと言われて今の私があるってすごいよね。



そんな正反対な私たちは何故か幼い頃から仲がいいワケなのだが。



いや仲がいいなんて私にははっきりと言えないが。



















「あ、英語の教科書忘れた」



「えー?英語って課題いっぱい出てるんじゃなかった?」



「あー……ま、いーや」



「あのね…ちょっと待って」











家の前になって気付くアンタに拍手喝采だよ。



無駄に重たいバッグを開けてゴソゴソと中を探るとまた無駄にテキストだの参考書だの量の多い英語を全部取り出した。



「はい!」と突き出すとキョトンと不思議そうな顔をする。















「英語私のクラスは明日ないから使っていいよ」



「いやお前2日がかりでやらないと無理だろ」



「余計なお世話だコノヤロウ。親切は受け取っときなさい」



「どうもどうも」















そう言って受け取ると、ガラにもなく「サンキュ」と笑った。



わー、久しぶりにこんなイヤミじゃない笑顔見たよ。



微妙な笑顔を浮かべながら手を振ると、心底イヤそんな顔をされた。







そうそう、これが本性だっての。



















++



























くんてさー、結構ナルシストだよね」















このセリフにお茶を噴出しそうになって何とか留めたところ気管に逆流。



背中を擦ってくれる友達に感謝しつつ私は耳を疑った。



ナルシスト。



確かに一言で表せばそれかもしれないが、女の子の口からこんなことを聞いたのは初めてだ。











「何で?」



「確かにカッコイイけどさ。それを絶対に本人は自覚してると思うのよ」















してる。



それは小学生くらいから絶対に自覚してる。











「あんだけ告白されてりゃねぇ……」











今日で入学してから4人記録ですおめでとう。











「しかも私この間メールブッチされて!」















面倒くさがり屋だから。



っていうか誰かからメールきても電話帳に登録しないってう。



それは私もどうかと思うよ、うん。



面倒くさがり屋にも限度があると思うのだが。



私に用があるときなんか窓に物投げつけるし。



5枚はもう割れたね。































「何だろう、何しても許されると思ってるって感じ?」



















それは…果たして、どうだろう。































友達は全員びくっと反応したと思う。



ご本人登場です。



噂をすれば何とやら、迷信も侮れないね。



















「お前の教科書に間違えてプリント挟んじまった。返せ















この高圧的な態度がナルシストなのか。



いやちょっと違うな、自己中?



何かそれも違うな。















「ちょっと…、親しいの?」



「はぁ…別に、家が隣なだけで」















ヒソヒソと話し掛ける友達は驚いたような顔をした。



そりゃそうだ、今の会話に私何も口挟まなかったし。



…心の中では、言ってたけど。



















「はいどうぞ」



「ん、サンキュ。これ一応貸し」



「は?」



「友達と食べれば」















ガサガサと購買の袋から取り出したのは、『もっちりゴマパン(6個入)』



わー、これが好きなやつじゃん。



くれるなんて何と気前のいい…。















「今日の帰り、駅前のパスタ」



















…なワケないよね。



捨て台詞を残して去ったアイツにサイフの中を見て半泣きになった。



親切、とかいう言葉ないのかアイツは。



















「……何だ、意外と…」







「優しいじゃん」











「はぁっ!?どこが?駅前のパスタってもっちりゴマパンの3倍の値段はするって」



















でも、満員電車の中で隅の方を譲ってくれたり。



英単語のミスを直してくれたり。







いつも売り切れでなかなか食べられないもっちりゴマパン買ってきてくれたり。











変なトコで優しい。























その本性はみんな知らない。



私だけの特権。











これはちょっと譲れないかな。































(060419) 譲れないモノ























++


何だかんだ言いつつやっぱりブラコンにかかってる女主。
心のどこかで独占欲が強い。
誰にだって譲れないものは一つや二つあるよね。
そんな感じで今や自分でもブラコンを認めています。


++
Purple feather様で30万Hit&一周年を記念してフリー配布されてたのを、頂いてきてしまいました。
だって、本当に素敵なんですもの!
Purple feather様で連載されてる、遙か3の夢『求めた先に』のお二人です。
ホントに、この感性は羨ましい限りです…っ。
30万Hit&一周年、おめでとうございます!