music by remair
この場所は、始まりの場所だった。
そして…今度は―――…
最後の記憶
「と、いうわけで…帰る方法は以上ね」
にっこり笑っている私とは対照的な皆さんの表情。
訳が分からないと混乱しているような表情の人もいれば
約数名、目が点になってる人もいる。
「何かご質問は?」
こんな簡単かつ簡潔に説明したのに、質問なんてあるわけないわよねー?
と言わんばっかりに言えば、戸惑ったような表情を返されて。
全く、言いたいことがあるなら言えばいいのに。
別に質問するな!とは言ってないんだから(態度に出てる)
「そんなに簡単な方法でいいのかよ?」
「何?もっと複雑な方が良かったの?」
「別にそういうわけじゃないけどよ…」
皆の心の内を代弁するかのように質問した将臣くん。
まったく、皆して
『それが言いたかった!』
って顔するんだもの…。
失礼ね!!
「ま、それで帰れるって言うならいいか」
「そういうこと」
私が説明した、帰り方って言うのは本当に簡単なもので。
要は、私の力を使って帰ればいいって話。
「戦いが終わったばっかりだから、白龍には全員を帰すだけの力は残ってないでしょ?」
「つまりは、その不足した力を、きみが手助けするというわけですか?」
「その通りですよ。弁慶さん」
たった一人、時空を移動させるだけでも、強大な力が必要になる。
でも、その力が白龍にはない。
そこで私の出番ってわけ。
「確かに、きみには応龍の神子としての力があります」
少しだけため息をついて。
弁慶さんは、私へと視線を向ける。
その瞳が、どこか悲しそうな色を含んでいたような気がした。
理由は…なんとなく分かっているけれど。
「ですが、分かっていますか?それほどに大きな力を使うということが、どういう意味を持つのか」
「分かっていますよ」
分かってる。
皆を帰すだけの力を使えば、自分がどうなってしまうかって事くらい。
「分かっていて、言っているんです」
「自分が消えてしまうことになると…いう事をですよ?」
「はい」
私は真っ直ぐと見つめ返して。
強く頷いた。
全員の視線を感じる。
驚きの視線。
戸惑いの視線。
そして…
伏せられる、悲しみの視線。
「でも、少しだけ違いますね」
「違うというと?」
「応龍の神子は、応龍の宝珠を守り、その強大な力を抑え隠すための器」
ゆっくりと、私は語りだした。
応龍の神子という存在。
それが一体何なのか。
宝珠とどんな深い関係があるのか。
「強大な力を抑えるために、神子は自身の魂の力を使う」
だから…
強い魂の持ち主でなくてはいけなくて。
何故だか分からないけれど、それに私が選ばれた。
「宝珠と魂を同化させることによってね」
初めて聞く話に、誰もが戸惑っているのが分かる。
ま、弁慶さんと白龍は違うけど。
「同化を解くことはできず、応龍の復活にはこの宝珠が必要となる」
「それじゃ…応龍が復活するときは、は…」
「望美が考えてる通りだよ。さっき弁慶さんが言ったけど、私は消える」
宝珠を返すということは、私が魂を失うことだから。
消えてしまう。
死んでしまうの。
「でも、今回は大丈夫よ?」
皆の暗い顔とは対照的に、私はにっこりと微笑んで。
あらあら、皆さん驚いていらっしゃるわ。
何か、今日は驚かせてばっかり?
「だって、応龍を復活させるわけじゃないしね」
「宝珠を返すわけではないから、大丈夫ってことかい?」
「そういうこと。ヒノエくんは話が早くて助かるわ」
宝珠を返すわけじゃないから、消えはしない。
そう言えば、
「本当かよ?」
「本当だって!信用無いなぁ…私」
「お前が、大丈夫だと言って今まで大丈夫だった試しがないだろう」
「九郎さん、そのお言葉、そのまんまそっくりお返しするわ」
少し引き攣り気味の笑顔を九郎さんへと向ける。
もちろん、怒りマークは忘れずにね。
そんな私に、負けじと眉が寄って行く九郎さん。
その様子を、皆は苦笑して見ていて…。
だけれど…
『大丈夫だった試しがない』
その言葉に、内心冷や汗が流れた。
「とにかく!絶対大丈夫だから、皆で帰りますよー」
『ま、ちょっとは体力的に辛いかもしれないけどね』
と言えば、
『変なところで自信家だよな。お前』
なんて、将臣くんに返されて。
『そんなところが、の魅力だろ?』
って、ヒノエくんが笑うもんだから、一体私は何なんだって言ってやりたかった。
「じゃあ、望美と譲くんは残るのね?」
「うん。だからここでお別れになるかな」
「兄さんのこと、お願いしますね」
「おい、譲。俺の方がコイツのこと、お願いされる方だろ」
「え…、将臣くんのお世話になるほど、落ちぶれちゃいませんけど?」
「相変わらず、口悪いよなぁ。お前」
「お互い様でしょ。文句言わない!」
神子として、八葉としての役目を終えた望美と譲くん。
二人は、現代に残るとそう言って。
分かっていた別れだった。
いつかは、元の世界に帰っていく人だと思っていたから。
だけど…
やっぱり寂しくて。
わざといつも通りに振舞って、寂しいと悟られないようにした。
「で、いいの?九郎さん?」
すっと九郎さんの側に行って、そっと耳打ちした。
「何がだ?」
「何がじゃないでしょ。望美のことよ。望美の」
『好きだったんじゃないの?』
いつもなら、そんなことを言えば赤くなって焦ったであろう九郎さん。
だけれど、今回は違って。
目を細めて、望美から視線を外さないまま、少しだけ微笑んだ。
「いいんだ。俺にはまだやらなければならないことが沢山ある。それこそ、危険な事は山ほどな」
『側に居れば危険は常に付きまとう。だからいいんだ』
そう彼は言って。
九郎さんが決めたことだから、私には
言わなきゃ後悔するよ。
なんて言えなかった。
確かに言わなければ、後悔すると思う。
だけど、もしも言って…望美が側にいてくれたとして…
いつか、望美が危険な目に遭ったとしたら…九郎さんはもっと後悔するだろうから。
「分かった。九郎さんがいいなら、もう何も言わないよ」
そう微笑んで。
私は白龍の元へと、歩いていった。
「…」
「大丈夫。分かってるよ」
ずっと、苦しそうな顔をしていた白龍。
その理由は私にある。
「宝珠。使ってもらっていいから」
足りない白龍の力を、私が補助する。
それだけでは、まだ足りないってこと…本当は分かってた。
応龍の宝珠は、本当の持ち主が持って、初めて真の力を発揮する。
だから、私じゃ…全員は無理。
「応龍じゃないと、全員を戻すのは無理でしょう?」
「でも、それじゃは…!!」
「消えちゃうね。でも、いつまでもこのままって言うわけにもいかないでしょう?」
今、別の方法で帰る方法があったとしても…
京に応龍の加護を無いままでいるわけにはいかないから。
いつかは、宝珠を返し、応龍を復活させる必要がある。
その時…
結局は、私は死んでしまう。
いつか、必ずそんな日がくるのなら…
「私が、皆に帰って欲しいの。だからお願い」
このことを知ったら、皆はきっと他の方法を探すと言い出す。
そんなことをするくらいなら帰らなくていい、と言い出す人もいるかもしれない。
それは、私が嫌なの。
大切な人と離れることが、どれだけ苦しいのか…
私はこの12年間で、嫌って言うほど味わっていたから。
それぞれ大切なものは違うけれど、手放して欲しくない。
「では、準備はいいですね?」
私の問いかけに、皆頷いて。
白龍は、まだどこか悲しそうな顔をしていたけれど、それでも強く頷いてくれた。
『元気でね』
『ああ。お前達もな』
記憶にある言葉が耳に届く。
そして…
『怖がらせてごめんね』
その言葉も。
視線を向ければ、そこには幼い女の子がいた。
私の小さな頃を知っている、九郎さんと弁慶さん、そしてヒノエくんは驚いた視線を向けてきたけれど。
そんな3人に、私はニコッと微笑んだ。
「女には秘密が多いものなんですよ」
「じゃああれは…お前なのか?」
「見た通り。私の昔の顔、忘れたの?」
「本当に、きみには驚かされますね」
「あの子が姫君だとすると、姫君があっちの世界に来たのは…」
「そ。皆に付いて来ちゃったからなのよね」
明らかに、三人とも笑顔で言うことじゃないだろ!って顔をしたけれど。
いいのよ!
今はもう、笑って言えることなんだから。
「さて、始めますね」
私の声と共に、辺りが銀色に包まれる。
だんだんと、望美たちの姿が見えなくなっていく。
そして、私が最後に視線を向けたのは、昔の私。
驚いている彼女に、私は手を差し出した。
『あなたの望んでいるものは、この先にあるよ』
そう微笑んだ。
そうだ…思いだした。
私はずっと、自分が光の中に飛び込んだのは、この世界から逃げられる、そう思ったからだと思っていた。
でも、違った。
手を差し出してくれた人がいた。
微笑んで、望んでいるものがあると、言ってくれた人がいた。
だから、迷わずに飛び込んだ。
忘れていた、最後の記憶。
「今度こそ、熊野へ来てくれるんだろう?」
時空の狭間で、ヒノエくんはそう言った。
「熊野でなら、お前が望んだ『普通の姫君』としての暮らしが出来る」
それは、私が前に断った約束だった。
守れないかもしれない約束はできない、と。
そう言って。
だけれど…今度は…
「それも、いいかな」
今度は約束できる。
ふふっと私は微笑んだ。
そんな私にヒノエくんは、そうこなくっちゃという顔をしたけれど。
でも…それは、本当はしてはいけない約束。
強い銀色の光に再び包まれて、私達は出口へと辿り着いた。
そして、数秒後には、京の日の下に私達は立っていた。
ちゃんと戻ってこれた。
そのことに安心して。
少しだけ、確認するように空を仰いだヒノエくんの視線が、私へと戻される。
だけれど、次の瞬間ヒノエくんの表情が凍りついた。
「!?」
透けていく私の体。
すぐに触れることも出来なくなって。
私の手を掴んでいたヒノエくんの手も、通りぬけるように落ちていく。
「ごめん。時間みたい」
「時間…?」
私はゆっくりと、空を指差す。
そこには、応龍の姿。
そして、朔の手からは黒龍の逆鱗が姿を消していた。
「まさか……」
「嘘ついてごめんね…。ありがとう…」
自分で、自分の体が消えていくのが分かる。
その場に立っている感覚も、存在している感覚すらなくなっていって。
あぁ、これが消えるってことなんだな。
なんて、冷静に思っていたり。
みんなの顔が見えなくなっていく。
また…悲しそうな顔をさせてしまった。
笑顔で見送れっていう方が無理だと思うけどね。
でも、やっぱり笑顔を覚えておきたかったなぁ…。
「お前が消える必要なんて…ないだろ…っ。!!」
最後に聞こえたヒノエくんの言葉。
本当はしてはいけない約束だった。
それは分かっていた。
でもね…
「守れない約束は…しないから―――…」
その言葉が届いたか分からないけれど。
でも…必ず、約束守るから。
守って見せるから…。
だから、待っていて欲しい。
そう思うのは、我侭だよね―――…。
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あとがき
お久しぶりの更新になります!!
本当に申し訳ない…っ。
さぁて…一体この先どうしようか。
いや、決めてはあるんですけどね!