mucic by remair
まさかこんなに早く見つかるなんて思っていなかった。
幼かった私の記憶に残る彼女。
紫苑の髪を持った、あの女の人に…。
だけれど…
彼女はあの時と変わっていなかった…。
変わったのは…
時が過ぎたのは、私…だけ…?
出会い
「私はです」
私の実質的主である政子様の命令で、白龍の神子たちと合流したのはついさっき。
どうやら、彼らは私の到着をずっと待っていてくれたらしく、今日一日は時間をとってくれていた。
そして自己紹介を兼ねて、これからのことを話し合おうということになったのだ。
「えっと、それじゃあ私から自己紹介しますね。私は春日望美です」
この子が…白龍の神子か。
弁慶さんから話は聞いていたけれど、本当に可愛い感じのする女の子。
一体この子の肩にはどんな重い運命が圧し掛かっているのだろう…。
それに、最初は驚いたけど、彼女は私が探していた人で。
それなのに…何かがおかしい。
彼女は以前と変わらぬまま、全く歳をとっていないのだから。
「私は朔といいます。さんの話は、兄からかねがね伺っておりました」
そっか、この女の子が景時さんの妹姫ね。
景時さんって意外とシスコンだから…実は私も彼女の話は知っている。
だって…嫌っていうほど聞かされたもの。
それはもう、話し始めたら1時間や2時間はゆうに喋りっ放しっていうぐらい。
その時の景時さんは、見ていて微笑ましかったけれど。
…話す相手を私以外にしてほしいと何度思ったことか。
「そうそう二人とも。私には敬語は必要ないよ?私も大して歳変わらないからね」
そうなのよねぇ。
堅苦しいのって嫌いなんだよ。とにかく。
鎌倉にいるときには仕方がないと思っていたけど。
せめて外に出られたときはくらいは、息抜きさせてね。
私のその言葉に、二人の顔が多少なりとも和らいだ。
微笑んで返事をする彼女達は、それはもう可愛くて。
女の私でもドキッとしてしまう。
あの人も…政子様も昔は同じように笑う人だったのに…。
それで…あと、この部屋にいる人は…
望美ちゃんと同じ世界から来たという、有川譲くん。
眼鏡をかけていて、とても落ち着いてる子だ。
それと、小さな男の子。
白龍と名乗ったその子は、私を見て懐かしそうに微笑んだ。
「、久しぶりだね」
最初そう言われたときには分からなかった。
だって、まさか人身をとっているなんて…想像もしなかったんだもの。
黒龍が消えたというのは、弁慶さんからも聞いていたし、私自身感じ取っていた。
だから、同じように…白龍も消えてしまったのだと、そう思っていたのだ。
だから、白龍と名乗ったときも、神様と同じ名前なんて珍しいって思っただけだった。
だけれど、白龍の
「は…私が分からない…?」
と、悲しそうな表情をされた時に気がついた。
その表情があまりにも似ていたから…。
『私達は…もうすぐ消えてしまう…』
私に会いに来た彼らがそう言ったときの表情に…。
面影があまりにも似ていた。
まあ、そのときの彼らは両方とも龍の姿だったけれど。
「もしかして、あの白龍なの…?」
驚いて、思わず指を指してしまった。
ごめんね、白龍!
皆は、私と白龍が知り合いだったことに、少なからずや驚いている。
といっても、弁慶さん以外の人がね。
だって、彼には話してあるし。
「と白龍は…知り合いなの?」
と望美を始め、みんなが不思議がるのは当然というもので。
やっぱり、これからのことを考えると、話さないわけにはいかないよね。
「少し長くなるけど…驚かずに聞いてね?」
私はとにかく分かりやすいように、今までのことを全て話した。
自分はこの世界の人間ではないこと、この世界に来た経緯。
もちろん、『あなたたちと出会ったから、この世界に来たんです』なんて言わなかったけれど。
だって、私にも確信があるわけじゃないし。
そして、私にある力についても本当に全て話した。
「つまり、は私と同じ世界からきて…白龍と知り合いなのは応龍の神子だからっていうこと?」
「そういうことになるわ」
一気に説明したせいか、どうやら混乱させてしまったみたい。
だからといって、私も本当に詳しくは知らないし…。
「私に現れている力は、人の記憶を覗き見ることができる力と…それと封印の力でいいのよね?」
と、白龍に確認しながらの説明になってしまう。
でも、白龍が「そうだよ」と言っているのだから、たぶん言っていることは間違っていないと思う。
それで…
「でも、私の封印は…少し望美とは違うかもしれません。見てもらえば一番分かりやすいんですが…」
私の封印は、怨霊を五行の力に…龍脈に戻すものではない。
怨霊の時空…時間を怨霊となる前に戻すものだ。
実質封印とは少し異なる。
そして、その力を応用することも可能だということも、最近発見した。
まあ、それはまだ完全ではないから…また後々話すとして…。
「そうですね…言葉では説明しても分かり辛いかもしれません」
と、実際にその光景を見ている弁慶さんの意見もあり、その力は追々見てもらうことにした。
一緒に行動していれば、怨霊を相手にすることもあるだろうし…。
「それで…俺と弁慶、景時と先生の事は知っているからいいだろう。後は…ヒノエと将臣だな」
九郎さんと弁慶さんは所謂腐れ縁(酷)
で、景時さんは頼朝の腹心である戦奉行だから、何度も顔を合わせているし。
まあ、昔から色々と相談できる相手ってところ。
そして、九郎さんの言う先生っていうのは、私と九郎さんの剣の先生で、名前はリズヴァーン。
鞍馬山の天狗とも呼ばれている、鬼の一族の末裔なんだけど…。
私は若いのに失礼だとは思うけれど、まるでお父さんのように思っている。
「将臣くんは用事があると言っていたのは知っていますが…ヒノエはどうしたんです?」
「それが…」
ヒノエって…弁慶さんが気をつけろって言ってた人よね?
そう言われれば、ここには緋色の髪をした人はいない。
「いなくなったんですか?ヒノエが?」
「というより…」
なにやら言いにくそうな望美。
私の方にチラッと何度も目線を送ってくる。
何?私に何か関係があるの?
「に会いたくないって…」
突然頭を殴られたような感覚に陥る。
私のことを知っている人は…いい顔をしない人もいた。
政子様の護衛役という立場を利用して、頼朝に取り入ろうとしている…そう噂する人間だっていたけれど。
それでも、出会ったことすらない…
ましてや、名前すら知らなかった人に『会いたくない』なんていわれる筋合いはないというもの。
「そう…。いいんじゃない?別に本人がそう言っていたならね」
それでも、私は人に嫌われることに慣れていた。
この世界での12年間…
いや、生まれてから今まで、私を好きでいてくれた人の方が少ない。
私も含めて…私を嫌いな人なんてたくさんいたから…。
それに…
相手がそのつもりなら、私だって無理やり仲良くしようなんて考えたりしない。
相手が拒否するのなら、私だって拒否する。
それが私のやり方。
「でも…」
望美はどこか悲しそうだけれど、でも私なら大丈夫だよ?
あなたはきっと…人に愛されて生きてきたんだね。
そして、とても優しいんだね…。
だから、こういうことが辛いと感じてしまう。
まるで自分のことのように…。
だけど、慣れている人間にとっては…周りが思うほど辛いものではないのよ?
それから身を守る方法を知っているから…。
だから大丈夫。
「大丈夫よ。私ってこういうことに慣れてるから」
よしよし、と望美の頭を撫ぜたら、彼女は頬を染めて「子供じゃないんだから」って抗議した。
同年代ぐらいの子と話すのは久しぶりだから…こういうのは新鮮で面白い。
で・す・が…
そこで「確かに」とか「昔からそうでしたからね」って…
九郎さん、弁慶さん…。
結構あなたたちも遠慮がありませんよね(怒)
「そうだ、もう一つ言っておかなきゃいけないことがあるんだけど…」
心の中で、二人にどう復讐してやろうか考えていたが、あることを思い出した。
実際どうなるかは分からないけど…
可能性はあるから一応断っておかなきゃね。
「もしかしたら、この先別行動することもあると思いますけど…。そのときは許可願いますね」
私は確かに彼らと行動するようにとは命じられたけれど…
それでも、これまでと同じような仕事をこなさなければいけないだろう。
いつ政子様から新しい仕事が来るか分からないし…。
一度命じられれば、それに従い彼らとは離れることになる。
「そっか、ちゃんも仕事があるからね〜」
「はい、今のところはありませんが」
私の仕事は政子様の護衛と情報収集だからね。
情報収集のために色々なところにも行かなければいけないし。
「そんなことは、言われなくても分かっている」
って、九郎さん…
もう少し言い方ってものがあるでしょう?
昔からそういうところは変わらないんだから…。
「はいはい、それは失礼致しましたっ」
って…私も人のこと言えないんだけどね。
どうしても、九郎さんには遠慮なんて微塵も無い言い方になってしまう。
「…!」
怒らせたのは私だけど…
原因を作ったのは九郎さんだからね。
「それで…に使ってもらう部屋なのだけれど…」
ほぼ取っ組み合いに近い喧嘩になっていた私達。
でもそれを気にすることなく、そう言い出した朔は…ある意味すごいのでは…??
「あ、いいよ。私は他のところに宿をとるからさ」
「え?」
ピタッと動きを止めてそう言えば、皆して私に視線を向けた。
元々、そのつもりだったんだけどね。
「だって、いつ別の仕事が入るか分からないし…。それに彼も帰って来にくいでしょ?」
仕事が入ったら、朝晩問わず出て行かなければならないし。
勝手な行動をすることがあるのなら、別々の場所に居たほうがお互いのためにいいと思うしね。
一緒に行くときは早いうちに私がここに来るから、問題ないでしょ。
それと…私が言った彼というのは当然、ヒノエという名の八葉。
私はチラリと視線を庭へと送った。
全く…私もナメられたものよね…
ねえ、そうでしょう?
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「ヒノエくん?どこ行くの?」
今朝早く、屋敷を後にしようとしたら望美に引き止められた。
まあ普通に考えればそうだろうね。
今日は彼女が到着する日だから…。
「今日はさんが来る日だよ?」
ああ、知っているさ。
だから、オレは出かけるんだけどね…。
「姫君たちには悪いけど、オレはそのって人に会いたくないんでね」
早くこの場から離れたいと焦っていた。
だから、思わず言い方が冷たくなってしまう。
なんで?って顔を望美はしたけれど…
オレにはオレの事情があるからね…。
ま、オレも一部始終は見させてもらうよ。
彼女に会わない様にね。
オレがに会いたくなかった理由は、別に彼女に敵意があったからじゃない。
ただ、怖かっただけだ…。
自分の記憶を読まれることを恐れていた…。
そう…あのときのように―――…。
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あとがき
すでに敦盛さん以外の八葉が集まっていますね。
それでもって、恐らくヒロインが単独行動する雰囲気が漂っております…。
でも、「会いたくない」なんて…ヒノエが言うのかが…あやしい…。