music by remair







昔…まだ私が幼かった頃、不思議な人達に会った。
見たこともない服装に、武器を携えた人達に。

「怖がらせてごめんね?」

武器を持っている彼らと呆然としている私。
相手が「怖がってる」と思っても当然なんだけど。
その時不思議と怖くなかったことは、今でもハッキリと覚えている。





動き出した運命







名前を呼ばれて振り向けば、そこには見知った顔があった。
人当たりのよい笑顔を浮かべた女性。
ふわふわの髪が印象的な人…。

「政子様…何かご用でしょうか?」

私が返しきれないほどの恩を受けたこの人は…北条政子。
そう、源頼朝の妻で彼の亡き後は政治の実権を握った、あの有名な女性。

だけれど、私はどうしても好意を持てなかった。
どんなに恩があろうと、それでも好きにはなれない人…。
最近起こっている平家との争い。
彼女がどう考えているか分からない…。
それでも、どこか楽しんでいるように思えるのは…私だけだろうか…?

と出会って、もう何年になるのでしょうね?」

政子様は私の質問には答えなかった。

何か…ある。
この人が話をそらすときは、何かあるのだと…私は十分理解している。

何度もそういったことがあったから…
だから、もう簡単に感情を乱すことは止めた。
戸惑うことも無くなった。
この人はこういう人なのだと諦めて…。
だから今回も、私は平然と答えを返した。

「私が政子様に拾われてから、もう12年になります」

そう、拾われたのだ…
私は政子様に。
あの日…あの時に…。










事の始まりは12年前。
まだ7歳だった私はその日、母親に捨てられた…。

「お前なんかいないほうがいいのよ!アンタがいるから、私は…ッ!!」

そう言って、母は私を連れ出して。
そして…
車で連れて行かれた場所に、私は置き去りにされたのだ…。
それでも、私は待っていた。
母が戻ってきてくれることを…。
私を迎えに戻ってきてくれることを…。
だけれど、母は戻ってこなかった。

どれくらい待ったのか分からない。
それでも、ジッと待っているなんて出来ずに母を捜して…
いるわけもない母を捜して、森の中を歩き回った。
そして、辿り着いたのは海岸。
そこで私は母ではなく…『彼ら』に出会った…。

「怖い思いをさせてごめんね?」

紫苑の髪をした女の人がそう言った。
私が出会った彼らは、皆武器を持っていて。
知らない人…見たこともない服装…
そして、それに加えて知らない場所…。
怖くなって当たり前だと言うのに…それでも私は恐怖など感じていなかった。

自分でも不思議だったけれど…
それでも、その頃から私は『諦めの早い人間』だったのかもしれない。

幼いながら感じていた。
自分が必要とされていないということを…

だからその時、私は…
『彼らに殺されてもいい』とそう思っていた。

でも、彼らは悪い人ではなかった。
私を殺してはくれなかった…。
だから今、私がここに生きているのだけれど。

「元気でね」
「ああ、お前達もな」

そう言って彼らはお互いに別れを告げて。
紫苑の髪をした女の人と…眼鏡をかけた男の人は、残りの人とは一緒に行かないらしい。

もう会うこともないだろう、と彼らの内の一人が言った。
だからだったのかもしれない…。
私が彼らが光に包まれ消える刹那、その光に飛び込んだのは…。
彼らについていけば、母のいる世界から…消えることが出来るような気がしたから…。

同じ世界にいるのなら、もう会うこともない…なんて言わない。
そう、幼いながら本能で直感していたのではないか?と今なら思う…。

「どこ?ここ?」

飛び込んだ先に彼らは存在していなかった。
視界に入るのは、木ばかり…。
まるで、再び母に置き去りにされたあの場所に戻ってきた気がして…
涙が溢れてきた…。

一人で泣いて、夜の森を歩き回っていた…。

「どうしたの?」

目の前に現れたのは、知らない人。
綺麗なお姉さん…幼かった私はそう思った。
優しそうな人だった。

「お父様もお母様もいないの?行くところがないのね…?」

どうやらここでは、捨て子というのは珍しくはないらしくて。
だから、私がその問いに頷いたとき…
彼女も気遣って悲しそうな顔はしていたが…それでも奇妙そうな顔はしなかった。

「そう…それなら、私の家にくるといいわ」

捨てられた私と…拾った彼女・政子様…
それが私達の出会いだった―…。










「もうそんなに時が経ったのですね」

早いものですわ、と笑う政子様…。
今、私は彼女の元で情報収集兼彼女の身辺警護をしている。

…この人は変わってしまった。

私と出会ったばかりの彼女はこんな風に笑う人ではなかった。
こんな風に…何を企んでいるのか…何を考えているのか分からない…
そんな笑顔を浮かべる人ではなかった。
人当たりが良い笑顔…
だけれど…それは見せ掛けばかり…。

彼女が変わったのは…源頼朝と出会ってからだった。
どう考えても…彼の野心に影響されたのだとしか思えなかった。

なんどもこの人を説得しようとした。
昔の彼女に戻ってほしくて…
でも…無駄だった。
その時すでに、彼女には頼朝の声しか届かなくなっていたから…。

「ええ。とても早かったです…」

すでに彼女に対しては『恩がある』という感情以外はない。
彼女を慕う気持ち…そういった感情は封じた。

その時から…私はまた一人になった…。
この世界は…私の生まれた世界とは異なる。
そうハッキリと理解したのは、この世界に来て暫くしてからだった。

怨霊が溢れ、人が死ぬのが当たり前の世界…。
それでも、私は幸せだった。

母さえ必要としてくれなかった私を、政子様は必要としてくれたから…。

一度必要とされる喜びを知った私。
だからこそ、頼朝へ彼女の心が移ったとき…
再び必要とされなくなったときは、耐えられなかった。

に新しい仕事を差し上げますわ。これからある一行と共に行動なさい」

にっこりと笑う彼女…。
そこにどんな企みが潜んでいるのか…。
それでも…私は従うしかない。
それだけの恩が彼女にあるから…。

「ある一行とは?」
「九郎たちとですわ」

九郎さんたちと?
九郎さんは頼朝の弟で、源氏の総大将だ。
この二人、兄弟だけど全く正反対なんだよね…。

初めて会ってからは、たまに剣の修行を一緒にしたりして…私のお兄さん的存在だったり。
そういえば…彼は今、京に現れた白龍の神子と一緒に行動してるんだっけ。
私と同じで…異世界からきたという白龍の神子。
私は少なからずや興味があった。

「行動範囲が広がれば…あなたの探している人とも出会えるかもしれませんよ?」

私が探している人…
それはあの日、あの夜に出会った人たち。
私がこの世界に来ることになった理由となった彼ら…。

ここ数年、私は彼らを探していた。
彼らの顔は覚えていない…。
唯一覚えているのは、紫苑の髪をした女の人だけ…。

出会える確立はゼロに近い…。
それでも私は探していた。
誰にも必要とされていないこの場所から…
私を再び連れ出してくれるような…そんな気がしていたから…。

「御意」





一体どんな企みを持って、そう命を下したのかは分からない…。
だけれど…今は命に従いましょう。

私には私の願いがあるように…
きっとあなたにはあなたの願いがある。
今はその願い、叶えるために。
それが私に出来る恩返しの一つだから…。

でも、もしそれが…
私の願いを妨げるものになるのなら、その時は…

あなたを…失望させるかもしれません。
政子様―――…。










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あとがき
なんともまぁ、有り得ないような設定と化してますが…。
どうか最後までお付き合いくださいませ。
政子さんの口調が全く分からず、偽者になりました(汗)