今度こそ
貴方と一緒に――…





たどり着いた場所





「う、うそ…っ」
「本当だよ」
「え、だ、だって、変わってないよ!?皆!!」

ちょっと受け入れられない現実が、私の前に突きつけられてます!!
一人焦ってる私に、ヒノエくんは面白そうにしていて。
ちょ、ちょっと待ってよ!!
私は全然面白くない!

「九郎さんとか、弁慶さんとか!!景時さんも、全然変わってない!」

そりゃ、ちょっと将臣くんは大人っぽくなったかなー?とか。
朔は美人になったとか。
敦盛くんは、すっかり美青年になったとか!
先生、髪切っちゃったんだーとか!
思わないこともないけど!!!!
でも!!

「3年以上も経ってるなんて嘘よー!!!!」
「だから嘘じゃないって。オレ、そんなに変わってない?」
「う…、変わってないわけじゃないけど…」

そりゃね、あの少年っぽさが無くなってしまってるけど。
髪も伸びて、後ろで編んでるせいもあるし、サイドにあった三編みがなくなってるせいだと思いたいのに!!
でも…身長も伸びてるし。
声も、低くなってるし。
って…

「やっぱり、本当に3年以上?」
「そ。3年以上」

恐る恐る聞きなおしてみれば
間髪いれずに答えてくださいましたよ。
しかも、にっこりと笑顔つきで!!!!
その笑顔が、なぜか非常に怖いんですが??
ますます弁慶さんに似てきてる!絶対!

「じゃあ、じゃあ…ヒノエ君っていくつになっちゃったの?」
「あと2月もしないうちに、21だよ」
「え…」

あぁ、もう…なんてこと。
私、私…

「何を騒いでるんだ、お前は」
「く、九郎さん!!だって、だって!!聞いてよ!!!」
「何だ、なんかあったのか?」

続いて顔をだしたのは将臣君。
その後ろからひょっこり景時さんも顔をのぞかせた。

「九郎が、またなにか言ったのかなー?」
「景時!また、とは何だ。またとは!」
「違うの!そんなことじゃなくて!私…ヒノエ君より年下になっちゃうのよー!!!」
「「「は?」」」

重なった三つの声。
それはなんとも素っ頓狂なものだったけど、そんなことは気にしてる場合じゃない!

だって、そうでしょ?
だって、私まだ20歳になったばっかりだもの!
ヒノエ君があと二月もしないうちに、21歳になっちゃうなら…
二月後には、私はヒノエ君より年下になっちゃうのよ!!

「ああ、それでさんはさっきから騒いでたんですね」
「離れまで聞こえてるわよ?
「だ、だって…信じたくないんだもの…っ」

唯一、ヒノエ君に勝ててたものがなくなっちゃうのよ?
年上ってこと以外、すべて負けてるっていうのはちょっと悲しいものがあるけど。

「そんなことより…」
「そんなこと?」

ぴたっと動きを止めて、にっこりと笑みを向けてやる。
そんなこととは何よ!私には大問題なんだから!
九郎さんは一瞬声を詰まらせたけど、咳払い一つで言葉を続けた。

「なんだ、その…原因ははっきりしないが、お前の言うとおりで間違いないだろう」
「…やっぱり、そうなんだ」

原因、というのはもちろん、怨霊のこと。
怨霊を生む原因になったのは、やはり五行の歪み。
そして、その原因を作ったのが…私。
そう、応龍の宝珠と私の同化を解くには、大きな力が必要となった。
だから、その際にわずかな時間だけだけれど、五行の流れに乱れができたのだろうと。
そういうことなんだけど。

だって、他に原因に思えるものないしね!

が戻ってくるには、龍神の力を借りる必要があっただろうからね」
「ええ、ヒノエの言う通りです。おそらく、そこに理由があるんでしょう」
「ま、詳しいことは分からねえんだけどな。結局」

将臣くんは、からからと笑った。
けれど、その腕や首には包帯が痛々しいほど見えていて。
それは、他のみんなも同じ。

「ごめんね…。私のせいだよね、みんなの怪我」

しばらくの間、皆この京屋敷で養生生活を送ることになりそう。
みんなの怪我は、やっぱり軽いものではなかった。
私に力が残っていたなら、怪我も治せたかもしれないけれど。
あのときに感じた宝珠の気は、あれから消えてしまって、全く感じることができなくなった。
それはきっと、あの力は私の中にわずかに残ったものだったからだと、そう思っているけど。

「相変わらず、馬鹿だな」
「な、ば、ばか…!?」
「怪我をしたのは、自らの力不足が招いたことだ。お前のせいなんかじゃない」
「そういう九郎も、相変わらずみたいだけどね」
「だよなー。不器用さも、ちょっとはマシになったかと思ったんだけどよ」
「ヒノエ!将臣!!」

あははー。
相変わらずなのは、二人も一緒でしょー。
なんて心のなかで苦笑してみたり。

「だが、本当に殿が気にすることではない」
「そうだ。あの怨霊と戦うことは、我らが決めたことなのだから」
「敦盛殿とリズ先生の言うとおりだわ。あなたのせいじゃない」

暖かい言葉。
それは、帰ってきてよかったと、そう思わせるには十分で。
溢れそうになった涙をこらえるのが大変だった。

「さて、皆さん部屋に戻ってくださいね」

昨日の今日で、動き回らないでください。
と弁慶さんは皆を促す。
そういう貴方も、結構な怪我をなさってた気がするんですが??

「それじゃあ、僕も一時退散しますね。ヒノエもなるべく大人しくしててくださいよ」
「あー、はいはい」

手でひらひらと、早く行けよと合図するヒノエ君。
こっちの関係も相変わらずみたい。
そんなヒノエくんに、弁慶さんは苦笑にも近い笑みを小さく浮かべて、部屋の外へと出て行った。

「結局、ヒノエの勝ちってとこか?」
「さぁ?それはどうでしょうね。そういう将臣君はどうなんです?」
「俺もまだ、勝ちを譲る気はねぇけどな」
「おい、お前達。一体何の話をしているんだ?」
「九郎には関係のない話ですよ」
「わかんねーぞ。弁慶。意外にもこういうタイプがなー」
「たい、ぷ?だから、何の話だ?」

弁慶さんが出て行った先の廊下で、そんな会話がされていたなんて、全く気づかなかったけれど。










「みんな、ホント変わらない」
「そうかい?」
「うん。外見とか雰囲気とかは、多少大人っぽくなってたり、落ち着いてたりで変わってるけど…」

でも

「優しいところとか、そういう本質は全然変わらない」

将臣君の、安心できるあの雰囲気も。
九郎さんの、不器用な優しさも。
弁慶さんの、周りを常に見て、気を配れるところも。鋭すぎて困ることもあるけどね!
景時さんの、すぐにフォローにまわれるあの優しい器用さも。ちょっと損な役割だけど。
敦盛さんの、まっすぐな瞳も。
先生の、あの見守ってくれる視線も。
朔の、年下のはずなのに(今は年上になっちゃったけど!)お姉さんみたいなところも。
そして…

「ヒノエ君の暖かさも変わらない」

変わらず、私を迎えてくれた。
それだけで、もう十分なんだよ?

「安心したの。本当は、ちょっと怖かったから」

本当に、私という存在を、皆が忘れていたらどうしようって。
戻っても、居場所はもうないかもしれない。
皆、変わってしまっているのかもしれないって。

「失礼な話よね」

あはは、と苦笑を向ければ、そこにはとても暖かな瞳をしたヒノエくんがいた。

も変わってない」
「そう、かな?」
「あぁ、変わってないよ。オレが愛しいと思ったのままだ」

だから、とヒノエ君は続ける。

「あの約束も、変わってないだろ?」

そう言って、私に向けられた笑みはとても優しいものだった。
私、私ね…

貴方と一緒にいていいのなら
一緒にいていいと、そう言ってくれるのなら

私は…

貴方と生きていきたい
これからもずっと

「オレと一緒に熊野に来てくれるんだろ?

何度その言葉を聞いただろう。
何度、答えを言えずに終わったのだろう。

瞬間、私はヒノエ君の腕へと飛び込む。

だけど
今度は言える。
聞いて欲しいの

「はい…っ」

ずっとずっと、言えなかった
私の答えを――――…








〜変わりゆく者・終〜






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