あの間に入るのは難しい
っていうより
絶対に無理!
お互いに厄介なのは
「ん〜…これはねぇ。ちょっと無理?」
何が無理かって?
それはね、声をかけるってこと。
別にかければいいじゃないかって?
それが出来たら苦労しないっての。
だって…
「ねえ譲くん、次は何をすればいい?」
「えっと、そうですね。そこにあるじゃがいもを切ってもらってもいいですか?」
「うん、分かった。えーっと、じゃがいもね」
今日は朔が忙しいから、望美がどうやら譲くんのお手伝いみたい。
食べる人数が多いから、作るのも一人じゃ大変なんだよね。
で、実を言うと台所にいるのは、私を除いて三人。
だけど、料理してるのは二人だけ。
じゃあ、もう一人は何をしてるのかって言うと。
何もしてない。
あ、いや。一応してるか。
幼馴染と弟をからかうってことをね。
ついでに、私が用があるのもこの三人目。
「おいおい、そんな手つきで大丈夫か?」
こんな風に、笑いながら望美の手を覗いてるのは将臣くん。
その様子に、いつものことながら譲くんが眉を寄せた。
「兄さん、手伝ってないのに言えた立場じゃないだろ」
「それとこれとは関係ないだろ。つーか、ホントに危なっかしい手つきだな。包丁が刀より危険なものに見えるぜ」
「そ、そんなこと無いよ。大丈夫だってば!これでも家庭科の成績は5なんだからね!」
「…それでか?」
うん、それは将臣くんに同感。
望美の手つきは、いつ手を切っても可笑しくないほど危なっかしくて。
それで家庭科の成績が5って…先生がよっぽど甘いのか何なのか。
それとも、包丁を使う料理はしなかったとか?
お菓子ならあんまり包丁使わないしね。
「あ、おい!目を離すな…って…遅かったか」
やっちまったと言わんばかりに、盛大にため息をつく将臣くん。
どうやら望美が一瞬目を離した隙に、指を切ったらしい。
じわじわと、血が滲んでるのが見えた。
「せ、先輩!大丈夫ですか!?」
「ったく、だから言っただろ」
「兄さん。何を他人事みたいに言ってるんだよ!原因は兄さんにあるんだからな」
「何で俺なんだよ?…つっても、否定はできねーか。ったく、しょうがねぇな」
将臣くんは、望美の手をとって突然その指を咥えた。
「え!?な…ま、将臣くん…っ!?」
「に、兄さん!?何やって…」
そりゃ、焦りもするわ…。
っていうか、見てるこっちが恥ずかしい。
ホント、仲がおよろしいことで。
「何って、消毒だよ。消毒。ま、あとは水で洗えば大丈夫だろ」
焦る二人に対して、これでもかってくらい冷静な将臣くん。
ね?こんな雰囲気の中に、どうすれば声をかけられます?
無理無理、絶対無理!
幼馴染っていうだけあって、割り込めないような。
声をかけ辛い雰囲気が漂ってる。
私と彼らの間にある壁。
ん〜、でもちょっと違うかも。
だって、もしも用がある相手が譲くんとか望美だったら、平気で声をかけれそうだもの。
この雰囲気の中、声がかけられないのは…将臣くんだから…?
でも、その違いは何なんだろ?
ただ…、ちょっと…
彼と彼の弟と幼馴染の間にある、絶対に他の人は入り込めない壁。
どんなに望んでも手に入らない、最も彼に近い場所。
それが…寂しいんだ。
「仕方ない、か…。後にしようっと」
まだ言い争ってる有川兄弟に、困ったように笑ってる望美。
それに苦笑して、私はそこから立ち去った。
+++++++++++++++++++++++++++++
「にしても、譲は相変わらずだよな」
人を探して廊下を歩きながら、さっきの出来事を思い出して、少し苦笑する。
心配性っていうか、望美一筋っていうか。
はたまた、お堅いというのか。
ま、だからこそ、からかいがいがあるってもんなんだけどな。
『もー!将臣くん、譲くんをいじめないでよ!!』
いつだったか、随分前に望美に言われた言葉。
『譲くんは私の弟分なんだから!』
『人の弟、勝手にとんな!』
『なら、もっと可愛がりなさい!』
『バーカ、弟いじめんのが兄貴の特権じゃねーか!』
今だってそれは変わって無い。
弟で遊べるのは、兄貴の特権だと思ってるしな。
それに、どうやら変わって無いのは望美たちも一緒のようで。
相変わらず、譲は望美の弟分ってことらしい。
ホント、幼馴染っていうのは悪くない。
一人この世界で3年も離れていたから、余計にそう思うのかもしれない。
だけど…
そう思うのは、自分のことに対してだけ。
他の奴の『幼馴染の関係』っていうのは、厄介なものでしかない。
いたいた、ったく…あんなところに居やがったのか。
探していた人物を、少し離れたところにある縁側に見つけた。
さっき、俺が望美たちのところにいるときに、アイツ…は少し離れたところで苦笑して見ていた。
何か用があったんだろうけど、結局何も言わずにその場を立ち去ったから。
気になって探していたんだけどな。
「全く、世話がかかるよなぁ…」
半ば苦笑しながら声をかけようと歩を進めたが、すぐにその場で足を止めた。
理由は簡単。
の側に、現れた奴らがいたから。
現れたのは、九郎と弁慶。
声が小さくだけれど、俺の耳にも届いた。
「こんなところにいたのか、」
「探しましたよ」
「あ、九郎さん、弁慶さん」
振り向いたが、とても嬉しそうに微笑んで。
九郎は相変わらずの仏頂面だし、弁慶はいつもの笑みを浮かべていた。
「それで、アイツはどうしたんだ?」
「あ…いや、それが…その…」
九郎の言葉に、が焦ったように、明後日の方向を向いた。
その様子に、九郎がどんどん眉を寄せる。
「その様子だと、どうやらまだのようですね」
「あー…というか、何というか」
「まだ、なんでしょう?」
「はい…おっしゃる通りです」
相変わらず、顔は笑ったまま弁慶が威圧する。
アイツのあれが、一番怖いんだよな。
それにしても、こいつらも何だかんだ言って、仲良いよな。
俺で言う、俺と望美たちの関係と同じ。
所謂、幼馴染ってやつだ。
あの雰囲気の中に、堂々と入っていけるやつがいたら、顔を拝んでみたい。
それほどまでに、幼馴染っていう関係は厄介なものだと思う。
本人達にすれば、かけがえの無いものなんだけどな。
確実に間違いなく、無意識の内に周りと壁が出来る。
悪いことではないし、気にする方が変だって思うけど。
近づきたい相手に、近づけない。
もどかしくて、恨めしい壁。
寂しくて、少し悲しくて…嫉妬しちまうんだよな。
別に、他の奴だったら気にならないんだけどな。
の…自分が惹かれて、想いを寄せる相手のことだからこそ、どうしても気になってしまう。
あーあ、俺らしくねぇ。
話の内容はよく分からないが、とりあえず、が頼まれた事をまだやってないということのようだ。
「お前、急ぎだと言っただろう!?」
「わ、分かってるってば!怒鳴らなくたっていいじゃない!」
「昔から全く成長しないな、お前は…」
「退化してる九郎さんに言われたくありませんー」
「はいはい、二人ともそれくらいにして。さん、それで理由は?」
にっこりと笑みを向けた弁慶に、一瞬ウッとは言葉を詰まらせて。
それでも、言いにくそうに言葉を返した。
「声、かけ辛かったんですよ」
の言葉に一瞬驚いた。
それはつまり、今の俺がそうのように…
彼女もまた、さっきの俺たちに同じ事を感じていたというわけだ。
+++++++++++++++++++++++++++++++
「足、痺れた…っ」
ったく、九郎さんめ!
一時間以上、正座させた挙句に説教してくれちゃって。
足の感覚が無いじゃないの!
確かに急ぎだって言うのは聞いてたよ。
でも、そんなに急いでるなら自分で将臣くんを呼んでくればよかったじゃない。
っていうか、説教する時間があるなら、さっさと将臣くんのところに行けばいいでしょー!
「まぁ…悪いのは、私だけどさー…」
一人ぼやいてみる。
でも、あの状況で声がかけられるもんなら、かけてみろ!って言ってやりたいのも本音。
あ、でも…。
九郎さん鈍いから、声かけれちゃいそうだよなぁ。
「あーあ、将臣くんのせいで怒られちゃったじゃない」
盛大にため息をついて。
痺れて思うように動かない足を恨めしく思いながら、自分の部屋へと足を向ける。
「誰のせいだって?」
「うゎ!?」
突然背後からかけられた声に、思いっきり驚いてしまう。
「ま、将臣くん!?びっくりさせないでよ!」
「そんなに驚く必要ないだろ。俺は脅かしたつもりはないぜ」
「そーでした…」
あはは、と笑ってみる。
そんな私に、将臣くんは小さくため息をついた。
「で?何が誰のせいだって?」
「どうせ聞こえてたくせに」
「悪かったな、最近耳が遠くてよ」
「嘘ばっかり。ま、いいわ。九郎さんに怒られたのが将臣くんのせいだって言ったのよー」
どんな反応が返ってくるのか、ちょっと楽しみだった。
多分、何のことか分からないだろうから…
『何で俺のせいなんだよ?』とか。
『意味分からねぇ』とか返ってくるんだろうな。
って思ってたんだけど。
返って来たのは意外どころか、思いもよらない答えだった。
「悪かったな」
「へ?な、何??」
「だから、悪かったって言ってるんだよ」
「な、何で謝るの!?」
どうすれば、そんな答えになるのか。
だって、普通は怒ったりするもんじゃない?
自分の身に覚えのないことで責められたんだから。
「そりゃ、怒られたのが自分のせいだって言われたら、謝るだろ。普通」
「いや、それはそうなんだろうけど…って、そんなわけないって!」
頭混乱中で、自分で何を言ってるのか分からない。
将臣くんも『意味不明だぞ、言ってる事』って言ってて。
おっしゃる通りですよ。
でも、
「身に覚えがないのに、謝る人なんていないってば」
「あー、そういうことか。ま、普通はそうだろうな」
「じゃあ、何で謝るの?」
「そんなの、身に覚えがあるからに決まってるだろ」
「は??」
将臣くんが、可笑しそうに笑った。
身に覚えがあるって…どういうこと?
って思ってたら、将臣くんが説明してくれた。
「声、かけ辛かったんだろ?」
「もしかして…聞いてたの?」
「まーな」
「でも、それって別に将臣くんの謝るべきことじゃないでしょ」
将臣くんが何か悪い事をしてたわけじゃない。
普通にいつも通り、望美たちと話してただけ。
勝手に、声がかけにくいって思ったのは私ですから。
「俺も、声がかけ辛かったからな」
「え?」
またまた小さくため息を一つついて。
将臣くんが、困ったような仕草をした。
「さっき九郎たちと話してるお前に、声かけ辛かったんだよな」
「はぁ…」
「それで、あの時お前もこんな感じだったんだろーなって思ったってわけだ」
「はぁ…」
「いやに気の抜けた返事だな」
あまりの意外さに、間抜けな返事しか返せなかった私。
そんな私に、将臣くんが苦笑した。
「だって、意外だったんだもの」
「意外?何がだよ?」
「将臣くんが、そんなこと気にするなんて…。もっと図太いかと思ってた」
「お前な…。じゃあ何だ?お前は繊細だって言いたいわけかよ?」
「いや、別に…間違っても自分が繊細だとか、思ってるわけじゃ無いけどさ」
でも…だけどねー?
「少なくとも、私よりは将臣くんの方が数倍図太いっていうか、鈍いかと思ってた」
失礼発言だっていうのは分かってるんだけど。
図太い?鈍い?違うな。
大らかっていうか、細かい事は気にしないというか。
配慮が足りないっていうか。
「お前、俺を何だと思ってんだよ…」
「ごめん、ごめん」
盛大にため息をつく将臣くんに、慌てて謝る。
だけど、思ったより気にして無いみたい。
そこが、さっきの発言に繋がる由縁なんだけどね(苦笑)
「まぁ、何て言うか幼馴染とか、そうじゃないとか…あんま関係ないんじゃねーか?」
「ん〜、まぁね。関係ないと言えば、関係ないとは思うんだけどさぁ…」
いつもの調子で軽ーく『関係ない』とか言ってくれちゃった将臣くんに、ちょっと言葉を濁す。
当然、将臣くんは
「何だよ?何か言いたそうだな」
って苦笑いしてるし。
でもねぇ。
いやいや、関係ないものかも?とは思うんだよ。
思うんだけど。
「それでもやっぱり気になっちゃうのが、幼馴染ってもんじゃない?」
出会ったのが先か、後かなんて大した問題じゃないんだろうけど。
気になるものはしょうがない!
「ま、気にならないって言えば嘘になるよな」
「でしょー?」
「でも、だからって今回みたいに遠慮する必要はないと思うぜ?」
「あー、うん。まぁね。それは同感」
「だろ?別に、間に割り込んで関係を壊してやる!とか思ってるわけじゃねーし」
「ごもっとも」
言われてみればそうだよね。
幼馴染の間を引き裂いてやる!って思ってたら大問題だけど。
別にそういうわけじゃないんだから、遠慮する必要もないわけだし。
「そっかー。気にしなければいいんだよね」
うんうん、と一人で納得してみる。
変な遠慮とか、深く考えすぎるとか、そんなこと必要ないんだよね。
「出会ったのが先とか後とか関係なしで、私は将臣くんが大切!」
要は気持ちの問題。
そーだよ、何深く考えすぎてたんだろ。
「うん、それでOKじゃない。何かスッキリしたー」
そりゃ、幼馴染は幼馴染。
だから私は将臣くんの幼馴染になることは出来ないけど。
幼馴染じゃないから…って考えて、壁があるとか勝手に思い込む必要はなかったわけよね。
「将臣くん、ありがとね。よかった、これで寝れるよ」
スッキリしたら疲れが押し寄せてきたわ…。
今なら安眠できそう。
「じゃあ、おやすみ。本当にありがと!」
将臣くんが、何やら苦笑気味だったけど、そんな事はお構いなし。
妙に晴れ晴れした気分のまま、私は自分の部屋へとさっさと向かった。
自分がサラッと言った、『将臣くんが大切』とかいう爆弾発言に気づくことなく…。
「アイツ、サラッと変なこと言って行くなよなぁ…」
だからもちろん、その将臣くんの呟きが、私の耳に届く事は無かったし。
私が去った後で、少し赤くなった将臣くんが暫く立ち尽くしてたなんてことも、知る由も無かった。
「あれ?で、結局なんで将臣くんだと、声がかけにくかったんだろ?」
部屋に戻って、ふとした疑問。
望美とか譲くんならあの場でも声がかけれた気がする、って今思い返してもそう思うけど。
どれだけ考えたって、将臣くんだとやっぱり何か無理な気がする。
「何で、将臣くんだけ…?」
将臣くんだから。
彼だから、幼馴染っていうのが気になって…羨ましかった。
ってそこまで分かってるっていうのに、その先にある自分の気持ちには全く気づかない。
将臣くんに鈍いとか言っておいて。
結局のところ、自分が一番鈍いんじゃないかって。
それに気づくのは、もう少し後になってから。
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あとがき
どーにも、将臣相手だと甘には出来ない(汗)
想像がつかないんですよね。
私には、幼馴染がいないのでちょっと憧れます。
にしても、文章変な上…意味不明ですみません!
とりあえず、ヤキモチシリーズ第3弾。
ヒノエ→弁慶→将臣ときたので、次は…。誰にしよう?(ォぃ)
拍手&読んでくださってありがとうございました!