外に出れば、女の子に囲まれる。
そんなことは分かっていたのに…
迂闊にもついて行った私が、馬鹿だった。
どこへ行けども
『あー、もう…。さっきっから、滅茶苦茶イライラしてるんですけどー?』
目の前には、そりゃもう、これでもかってくらいにイラつく光景。
黄色い悲鳴をあげてらっしゃるお嬢さん方に、その中心には愛嬌たっぷりの微笑みを振りまいてるヒノエくん。
それでもって、それをカヤの外から見てる私。
これが不機嫌にならずにいれます?
別に、あのお嬢さん方と一緒に取り巻きに加わりたいわけじゃないし。
むしろ、そんなのは謹んで辞退したいくらいだけれど。
かれこれ、時過ぎることすでに半刻になろうとしてまして。
いくら温厚な私でも、そろそろ我慢の限界だったりします。
そもそも、どうしてこんな事になったのか。
原因は、考えてみれば自分にあるような気がしないでもない。
「、今日は一日暇?」
今日は珍しく、怨霊退治にも行かなくて。
皆それぞれ、思い思いに過ごしていた。
そう、つまりはお休み日だったわけだ。
「今日?うん、特には何もないけど?」
「なら、オレに付き合わないか?」
これまた本当に珍しくだけど、私も特にやる事はなかったし。
ヒノエくんが誘ってくれたから、何となく付き合ってみることにしたんだけど。
これが大きな間違いだった。
「いいよ?どこかに行くの?」
「ああ、ちょっと六波羅にね」
六波羅か…。
そこって確か、熊野水軍の隠れ家があるところだよね。
望美と出会ったのも、あそこだって言うし。
でも、そんなところに何の用だろう?
いや、彼だけなら用事もあるんだろうけど。
私を連れてく理由なんて、全くないような気がするんですが?
「何の用事で?」
とにかく、疑問に思ったから聞いてみたんだけれど。
返ってきた返事は、ごくシンプル、というか答えになってない答えだった。
「ついて来れば分かるよ」
いつものような笑みを浮かべたヒノエくんは、私に向かって手を差し出して。
少し疑問に思いながらも、その手をとった。
で、ついてきた結果がこのざまだったり。
心の中で盛大なため息をつく。
よく考えてみれば、こんな事予想できたことだった。
ヒノエくんは眉目秀麗・容姿端麗でして。
まあ要は美少年だってことなんだけど、その彼がアジトにしてた六波羅を訪れればどうなるか。
彼の存在を知ってる女の人が、寄って来るに決まってる。
「ヒノエ殿、今まで何処にいらしたの?」
「今は何処にお住まいになっていらっしゃるのです?」
女の子達から次々に浴びせられる質問に、彼が嫌な顔をするはずがなくて。
「ちょっと知り合いのところにね。今もそこにいるよ」
なんて、嬉しそうに答えてる。
とは言っても、それははたから見たらの話で、きっと本人は嬉しいというより、楽しいと言ったほうが正しいんだと思う。
「場所は教えて下さらないのですか?」
「私、ヒノエ様に会いに参ります」
「ご迷惑はお掛けしませんわ」
この人だかりが、すでに迷惑になってますから。
景時さんの家に来たら、間違いなく皆の迷惑になるような?
だって、来る時は一人二人の話じゃないし、絶対連日だし。
いや、皆はきっと困ったような顔をするだけで、文句は言わないと思うけどね?
『でも、皆はよくても私は嫌なん…』
途中まで考えて、ハッとした。
何で、嫌なんだろ?
別にヒノエくんのところに女の子が来たって、私には関係ないよね?
騒ぎが聞こえない奥に行けばいいわけだし。
「ふふっ。姫君たちの申し出は嬉しいんだけどね」
『姫君』その単語に、思わず眉をしかめてしまった。
なんか、ますますイライラしてきた。
確かに、ヒノエくんが女の子になら誰にでも『姫君』って言うのは承知していた。
そんなこと分かりきっていたのに…。
『何かすごく嫌…』
ヒノエくんがもてることは知っていたし、あの容姿・言動なら当然の事だとも思う。
っていうか、女の子が寄ってこない方がおかしい。
「ヒノエ殿、今日はこれから何か用事でもあるのですか?」
「よろしければ、何処かにご一緒いたしませんか?」
どうやらお嬢さん方は、ヒノエくんを放すつもりはないらしい。
この後、ご一緒したいと申し出ている。
用事が無いわけじゃないんだろうけど…。
だって、わざわざ六波羅に来るくらいだから。
「いや、今日は…」
やっとのことで、ヒノエくんが私の方へ視線を向けた。
だけれど、私が彼に微笑むわけがなく。
「いいじゃない。どこか行って来れば?」
不機嫌なのがアリアリと分かる返答。
それにヒノエくんが苦笑して、そしてしまったという顔をした。
「私は帰るし。彼女達にもたまにしか会えないんでしょう?」
本当は、何か嫌だけど。
でも、私に彼を束縛しておく権利も無ければ、そんな立場ですらない。
彼がもてるのは仕方がないけれど…。
でも、それは私の見えないところでやっていただきたい。
「本当にいいのかい?」
ヒノエくんは私のもとへ歩み寄ってきて、その表情は相変わらず苦笑いを浮かべたままだった。
後ろで女の子達がざわめいてるのが分かる。
『あれはどなた?』
『ヒノエ様の何ですの?』
どうやら、私が彼と一緒に来ていたことを知らないらしく。
それどころか、恐らく私がいたことすら、今初めて知ったといった感じだろう。
「いいよ…。別に」
フイと顔を背ける。
大体ね…私を六波羅に連れてきたのって、これを見せ付けるため?って感じなんですけど。
あんまりにも、イライラしすぎて卑屈な方へ考えが行ってしまう。
見せ付けたって、彼には何の特にもならないのにね。
「は行かないのかい?」
「行きませんよ。…取り巻きは可愛い姫君たちだけで十分でしょう?」
私は可愛くないんで。
っていうか、性格も女らしくないし。
「オレにとって、最高の姫君はお前だけど?」
「冗談は、誤解されても困らないところで言いなさいな?」
ほら、後ろで泣きそうな子も出てることだし。
それに…一緒になんて行きたくない。
自分が惨めに思えてしまうから。
あなたにとって、私は他の女の子と同じでしかないんだって…思い知らされてしまうから。
「それじゃ、先に帰ってるから」
『皆には遅くなるって伝えとくよ』
そう言って立ち去ろうと思ったけれど。
でも、それは叶わなかった。
「オレに付き合うって約束だろ?」
私の腕を掴んで、彼はそう言った。
この状況でも、約束したと言い張りますか?
約束どおり、このまま彼女たちとも一緒に行動しろって言うの?
「…一緒にしないで…」
「え?」
思わずついて出た言葉にハッとする。
そして同時に焦った。
「べ、別に何でもない!」
「そうは思えないけど?」
いつものような笑みを浮かべるヒノエくん。
絶対…今聞き返したけど、間違いなく聞こえてたと思う。
分かってて面白がってるような気が…。
「オレは、お前を他の姫君と同じだと思ってないけど?」
ほら!
聞こえてたんじゃない…(泣)
「ねぇ、。もう一度聞くよ?オレが彼女達と一緒に行ってもいいのかい?」
私から返ってくる答えは、決まっているだろうって自信を持っているらしい表情。
彼の後ろから、通り越すように刺さる視線が痛いけれど…
でも…
「嫌…です」
「ふふっ、やっと素直に言ってくれたね」
妬きもちを焼いていたのがバレバレで。
だから、あまりにも恥ずかしくて俯いたけれど…。
直後私は、彼が私を六波羅に連れてきた理由を知ることになった。
「そういうわけだからさ。悪いけど、他の姫君と一緒にはいられない」
『今も、これからもね』
と、私を後ろから抱きすくめるようにして、女の子達の方へ向き直った彼は、微笑みながら言った。
当然、女の子達からは悲鳴が上がって、泣き出す子もいる始末。
それを他所に、私は固まってしまっていたけれど。
「ヒノエくん!?」
彼はそのまま直ぐに立ち去ってしまって。
女の子達を慰めるわけでもなければ、謝るわけでもなく。
私はそんな彼に、引きずられるように六波羅を後にした。
「もしかして…六波羅に連れてきたのって…」
「姫君は賢いね。多分考えてる事はあってるよ」
そう、つまりは女の子避けにするためでありまして。
何だか利用されたのが悔しいような気もするし、さっきのことにぬか喜びをされたのが、これまた気に入らなかったりもする。
「それなら、私じゃなくてもよかったじゃない…」
変に期待させられて。
思わず涙が溢れそうになったけれど、それは根性とプライドで我慢する。
「じゃなきゃ、意味がないからね」
「え?」
私は思わず、顔を上げて。
見えた彼の顔は、とても優しく微笑んでいた。
『じゃなきゃ意味が無い』
その言葉に…もう一度だけ、期待してもいいのだろうか―…?
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あとがき
拍手で何故だか、『ヒロインがモテるヒノエに妬きもちをやく』話が読みたい。
と沢山のリクエストをもらいまして。
突発的に書いてみたものだったり。
だから、何だか色々と可笑しい事になってますが…(汗)
そこはスルーでお願いします…っ。
リクに応えられてるかは怪しいですが、拍手お礼に掲載したいと思います。