特別な日。
それは、彼にとってなんだけど。
でも…
私にとっても、本当に特別で…
大切な日なんだ…






一年に一度の






「ヒノエ、おはようございます」
「…げ…アンタかよ。朝一番に見るのがアンタの顔なんてな」

朝起きて、障子を開けて一番に会ったのは、期待していた人物じゃなくて。
それでも、他の誰かならよかったのに。
よりにもよって、誰よりも後回しにしたかった人物と出くわした。

「おや、きみは挨拶もできない、礼儀知らずでしたか?」
「…おはよ」
「はい、素直にそう言えばいいんですよ。それで?そんなに僕に会うのが嫌でしたか?」
「そりゃね…」

今日は、一応オレの生まれた日で。
そうだからって、別に何か期待してるわけでも、何か思い入れがあるわけでもない。
でも、わざわざ悪い日にしたくないっていうのもある。

「自分の誕生はいい日にしたい…。君も可愛いところが、まだあったんですね」

くすくすと、弁慶は笑って。
事実だから、言い返せないし、悔しかったのは本音。

「そんなこと、あるわけないだろ…っ」

何とか否定して、いつも通りに振舞おうと思ったけど。
でも、どんなに言い返したって、いつも勝った気がしていないのも事実。

「あれー?どうしたの、ヒノエくん?顔、赤いよ?」

オレの背後から、ヒョイっとオレの顔を覗いた人物。
それは、本当なら朝一番に、誰よりも会いたかった人。

「おはよ、ヒノエくん。弁慶さん」
「おはよう、姫君」
「おはようございます。さん」

挨拶に答えると、は嬉しそうに。
満足そうな微笑みを浮かべた。






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朝、珍しくまだ起きてこないヒノエくんを起こしに行ってみると。
すでに彼は起きていて。
これまた珍しく、弁慶さんと一緒にいた。

「それで?弁慶さんとヒノエくんが一緒にいるって、珍しいよね」

興味深げに聞いてみれば、やっぱり思った通りの反応。
ヒノエくんは嫌そうな顔をして。
弁慶さんは、にこにこと笑みを崩さない。

「そうそう、さん。朝からヒノエのことで新しい発見をしたんですよ」
「発見?」

こんなにも付き合いが長い二人に、新しい発見って…。
一体どんなことだろう?
やけに弁慶さんが楽しそうだけど。
そういう顔してるときって…人をからかう時とかなのよね〜。

「おい、弁慶。何言うつもりだよ」
「ふふっ、きみの可愛いところをさんにも、お話しようと思いまして」
「弁慶、いいかげんにしろよ。大体、アンタが勝手にそう解釈してるだけだろ」
「おや、顔を赤くしてたからには、図星だったのでしょう?」

いつもは、実際の年齢よりも遥かに大人っぽく見えるヒノエくん。
それは、彼が熊野別当っていう立場にあるっていうのもあるし。
その容姿端麗さが、子供っぽい感じではないっていうのもある。
でも…

「弁慶さんといるときのヒノエくんって…歳相応だよね」

いつ見たってそう思う。
この二人のやりとりを、何度も何度も見てきたけど。

「うん、やっぱり可愛いわ」

私の呟きに、ヒノエくんが振り向いた。
そのすごく嫌そうな顔が、また照れてるところが混じってる分可愛く見えて。

「ほら、さんもそう言ってることですし。認めたらどうです?」
「〜〜〜…っ」

くしゃくしゃと、後ろから頭を撫ぜられて。
ヒノエくんは、俯いてしまったけれど。
肩を小刻みに震わせて、赤くなってるだろうことが容易に想像できた。

「突然ですが、さん。今日は何の日か知っていますか?」
「え?今日…ですか?」

今日って、何があっただろう?って考えるフリはしたけれど。
実は考えなくても知っていたり。

「さぁ?別に特に変わったこともない、普通の日じゃないですか?」

だけれど、知ってるって素直に言わないのが私。
というか、これは彼が生まれた日に関係があるんだけど。

「おや、きみが知らないとは思いませんでしたよ」
「だから、何をですか?」

唖然としているヒノエくんを他所に、にこにこと弁慶さんと会話を続ける。

「実は、今日は…」
「あ、思い出しました」

弁慶さんが何か言うよりも早く、ピッと指を立てる。

「え…?」

パッと視線を上げたヒノエくん。
内心、少しほくそ笑みながら、期待を裏切って悪いけれど…。
全く違う事を言った。

「今日は、エイプリルフール、ですよね」

それはすごく嬉しそうに。
にっこりと微笑んだ私に対し。
一瞬驚いて、すぐに意味を理解したのかくすくす笑い出した弁慶さんと。
今度こそ、完全にショックを受けたかのようなヒノエくん。

「エイプリルフールは…確か前に教えていただきましたよね」
「はい。例のアレが許される日ですよ」

例のアレ、っていうのがヒノエくんはどうやら分かっていない様子だったけど。
分かっちゃったらつまらない。

「それなら、どうやら僕はお邪魔みたいなので、失礼しますね」
「あら、分かってたんですか?」
「ええ、きみが例のアレをついてるってこともね」

そう言って、弁慶さんはにっこりと微笑んで。
スタスタとその場を去っていった。

「ったく…弁慶の奴…」
「いい叔父さんだよね〜」
、それはオレに対する挑戦状かい?」
「まさか。折角の特別な日に、そんなことするわけないじゃない」
「特別って…、もしかして」
「だから今日はエイプリルフール、でしょ?」

私の答えに、ヒノエくんは盛大にため息をついて。
ちょっと、やりすぎたかな〜。
やっぱり少し悪ふざけが過ぎたか。

「ヒノエくん、はいっ」

パッと、ヒノエくんの前に出したのは一つの包み。

「これは?」
「プレゼント…じゃなくて、贈り物だよ。誕生日、おめでとう」

いじわるしてごめん、と苦笑する私に、ヒノエくんは暫く固まっていて。
何か、今日はいつもと違うヒノエくんばっかり見れて、得した気分だわ〜。

「…覚えていてくれたのかい…?」
「もちろん。ヒノエくんにとって特別な日を、忘れるわけないでしょ?」

とかなんとか、偉そうに言っておいて。
さっき、何の日か分からないって言ってたのは、どこの誰だって話なんだけど。

「ごめんね、さっきの『何の日か分からない』っていうの嘘だったの」
「う…そ…?」

どんな反応をしていいのか分からないご様子。
ごめんね。
ヒノエくんなら、すぐにそんな嘘見破ってくれるかと思ってたんだもの。
まさか、こんなに落ち込んじゃうなんて。

「エイプリルフールっていうのは、嘘が許される日なの。だから…さっきのは嘘。ごめんね?」
「そっか…良かった」
「え?」
「いいや、なんでもないよ」

いつもなら、その後に一言二言、何かついてきそうなものだけど。
今日はそれが無くて、ちょっと拍子抜け。
でも、頬が染まってるように見えるのは、私だけ?
…もしかして。
照れてる!?

「ありがとう」
「え、いや…そんな…」

って、何で私まで照れてるのさ!
でも、そんな可愛い顔して、ありがとうなんて言われたら…っ。
何て反応していいか分からないんだもの!

「じゃ、じゃあ…私は先に行ってるから!ご飯、冷めないうちに来てね!」

どうしていいのか分からなくて、とにかくその場を去ろうとする。
でも、それは無理だった。
突然、背後からまわされた腕。

「ヒノエくん!?」
「何か…すごいホッとした」
「え?」
が…覚えててくれたことにね」
「そ…そう?」
「そうだよ」

ふふ、っといつもの笑いを浮かべているヒノエくん。
いつもなら、すぐに腕から逃げるところだけど。
さっき、いじめ過ぎたから、大人しくしてみる。

「ヒノエくんの特別な日は、私にとっても特別な日なの。一生忘れないから、安心しなさい」
「一生?」
「うん、一生」

せめてもの罪滅ぼしに、一生って言ってみたけど。
それが大きな間違いだった。

「へぇ、それなら…一生オレの側にいてくれるんだろ?」
「へ?」
「もう取り消しは利かないぜ。サイコーの贈り物を二つも貰えるなんてね」
「って…ちょっと、何か違う気がするんだけど…」

私の必死の抗議も全く関係無しで。
首だけ動かすと、間近に嬉しそうなヒノエくんの顔。
う…、と言葉に詰まっていると。
チュッと音がして、頬に何やら柔らかい感触。

「って…え、え…ええええええ!?な、何して!?」
「オレがもらってばかりだと、申し訳ないからね。オレからの贈り物」

驚いて、バッと勢いよく離れた私に、ヒノエくんは笑って。
まるで悪戯っ子を見ているかのようだった。

「今日はヒノエくんの誕生日でしょ。私は贈り物なんて必要ないの!」

『もう知らない!』と踵を返して、さっさと去ろうとしたら。
横にしっかりとヒノエくんは並んで。

「ついて来ないで」
「嫌だね。どうせ一緒の場所に行くんだし。それに…」

耳元で空気が動いた気がした。
髪がヒノエくんの手で払われて。

「一生、オレの側にいるんだろ?」
「な…っ」

耳元で囁かれて。
頬が熱くなるのが分かった。

「これからも、よろしくな。

そう微笑むヒノエくんが、本当にカッコよく見えて。
伸ばされた手を、思わず掴んでしまう。

「誕生日、本当におめでとう。ヒノエくん」

生まれてきてくれて、ありがとう。
私と出会ってくれて、ありがとう。
彼にとっての大切な…特別な日。
それは私にとっても特別なんだよ――…。














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あとがき
急いで頑張ったんですが、どうにも間に合わなかったです…っ。
ごめんね、ヒノエ!!
でも、愛だけはいっぱいだから!(ぇ…)
4月1日。
ヒノエくん、誕生日おめでとう!


4月3日までフリー配布していた作品です。(現在、配布は終了しています)
お持ち帰りの報告ありがとうございました〜vv